2024年5月12日(日)

教養としての中東情勢

2024年3月14日

 だが、ネタニヤフ首相が大統領の説得に耳を貸そうとせず、このシナリオは破綻した。その上予備選では、パレスチナ人の虐殺に怒った若者やアラブ系市民がイスラエルを支持するバイデン氏に投票しないよう「落選運動」を展開。アラブ系住民の多い重要な接戦州、中西部ミシガン州では、「支持候補なし」が13%強に上った。大統領にとっては一日も早い停戦を実現し、こうした反対勢力を取り込まなければならない事情があるわけだ。

 一方のネタニヤフ首相も奈落の淵に立たされている。ガザ戦争のきっかけになったハマスの奇襲攻撃を阻止できず、終戦となれば、すぐにも責任を問われ、辞任せざるを得ない。首相としては、戦争をできる限り引き延ばし、責任論が希薄になるのを待つ、というのが政治生命を維持するための基本戦略だろう。

バイデンと対立しても自身は“安泰”

 そうした中で急浮上しているのが「バイデンを生き残りの“生贄”にするアイディアだ」(ベイルート筋)。つまりは「バイデンはハマスとの戦闘停止やパレスチナ独立国家の樹立をイスラエルにゴリ押ししてくる強大な存在だ。その圧力を真っ向から跳ね返すことができるのは唯一ネタニヤフだけだ」という論理だ。

 バイデン氏を悪者に仕立て、ユダヤ人の愛国心に訴えるやり方だ。広く国民に知らしめるためにも相次いでメディアのインタビューに応じ「米国に立ち向かう指導者像」を振りまこうとしている。首相には、バイデン大統領との関係がどれほど悪化しようとも「ユダヤ系市民の影響力が大きい米国はイスラエルを切れない」とのヨミがある。

 さらに言えば、11月まで待てば、自分と相性の良かったトランプ氏が復活するという期待もあるだろう。だが、ネタニヤフ首相の思い通りに事が運ぶとの保証はない。その意味でギャンブルなのだ。2人の思惑が交錯する中、ガザの犠牲者が増えていくという冷酷な現実が積み重なっていく。

   
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