2024年5月21日(火)

未来を拓く貧困対策

2024年4月12日

 「なぜ社会保障が誕生し、現在も存在するのか」「社会保障がどのような役割を果たしているのか」「社会保障にはどんな課題があるのか」。授業例に盛り込まれた内容は、なるほどたしかに社会保障を学ぶ上では必須の項目ではある。しかし残念なことに、初学者に「面白い」と思える内容にはなっていない。

「15歳の心に届くか」を基準にする

 では、どうすればよいのか。

 その一つの答えが、『15歳からの社会保障』である。本書は、社会保障の入門書の位置づけとなる。にもかかわらず、入門書として備えるべき多くのものが欠落している。

 どのように社会保障が生まれ、紆余曲折のなかでどのように発展してきたのか。これを理解するには、社会保障の基本理念や用語の定義、歴史的な転換点となった事件や法律などの知識が不可欠である。

 社会保障がどのような役割を果たしているのか。これを理解するには、社会保障全体の体系を知り、年金や福祉制度などの各制度の成り立ち、対象範囲、サービス内容などを学ばなければならない。

 社会保障にはどのような課題があるのか。これに理解するには、少子高齢化によって生じる負担とサービスの不均衡、社会保険料や医療費の推移などの統計を押さえておかなければならない。

 『15歳からの社会保障』では、国の授業例や社会保障のテキストに盛り込まれているこれらの内容に、ほとんど触れていない。

 代わりに語られるのは、「人生のピンチ」に直面したときに、どう社会保障制度を使えばよいか。ただそれだけである。

誰も教えてくれない「人生のピンチ」への備え

 『15歳からの社会保障』では、日常生活でピンチに見舞われた10人のストーリーを通して社会保障を学ぶ。

 登場するのは、「ケガで仕事を休まなくてはならず、医療費と生活費に困ったユウジ」「住む場所がなく、食べるものに困ったシンジ」「高校生で妊娠し、生活に困ったマミ」といった10代から20代の若者である。

 第1章に登場するユウジは、社会人4年目の26歳。電気製品を製造する会社で働いている。駅の階段で転げ落ちそうになる子どもを助けた時に負傷して入院。「生活費や医療費はどうすればいい?」というピンチに見舞われる。「このピンチを切り抜けるために使える社会保障制度は何があるのか」という形でストーリーが展開していく。

 他にも発達障害の子育て、ヤングケアラー、虐待やDVなど、誰もが一度は聞いたことがあるピンチに見舞われた若者が、専門家や友人に助けられながら社会保障制度につながっていく。


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