「高校を中退して児童養護施設を退所したあと、10代で妊娠。相手男性は覚せい剤中毒でDVあり。勤務先の寮を追い出されて、車で路上生活をしているときに支援者につながった」
こうした読者が喜ぶ刺激的なエピソードを見つけるのは、支援の現場ではそう難しいことではない。ただ、そうした物語のみを強調することで、より困難な人が利用するものであるといったような、社会保障制度に対するネガティブイメージは強化され、読者から遠く離れたものとなってしまう。それが権利であるにも関わらず。
「貧しすぎる社会保障教育」をどう変えるか
大人が伝えたいことを伝える「貧しすぎる社会保障教育」とは対極に位置する。リアルな空気を大事にするドキュメンタリーとも異なる。社会保障教育に一石を投じたいとの横山さんの願いは、少しずつ社会を変えている。
『15歳からの社会保障』は、現在、5刷1万5000部。出版不況が叫ばれる昨今、社会保障という固いテーマを扱った本としては異例のヒットとなっている。出版をきっかけに学校現場から声がかかり、中高生の授業で社会保障教育を担当する機会も増えた。
現在、厚労省では社会保障教育について、新たな教材づくりに着手している。横山さんも、検討会のメンバーの一人として参加している(社会保障教育の推進に関する検討会)。
今までは、研究者や高等学校の教員を中心に進められてきた社会保障教育に、横山さんのような社会福祉分野の専門家が参画する意義は大きい。検討会では「ストーリー教材(案)」として、制度ではなく、人物を中心に置いた教材が検討されている。そう遠くない未来、新しい社会保障教育の形が示されるかもしれない。
横山さんのメッセージはシンプルである。
「あなたを大切に思いサポートしてくれる人や仕組みが社会にはある。人生の早いタイミングでそのことを知ってほしい」