2024年11月21日(木)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2024年4月16日

 クロマグロ資源の急増を、漁業者の一部も身をもって体験している。過日開催された水産資源管理に関するセミナーで、日本定置漁業協会の日吉直人理事は、厳しい漁獲量規制で再放流に取り組んだ結果、クロマグロが「スペシャルに増えている」と指摘、「なぜこの事例を皆で言わないのか」と資源管理の必要性を力説している。

ようやく走り出す国際基準での資源管理にためらいの声

 日本では、漁獲量、漁業者人口いずれも毎年過去最低を更新し右肩下がり一直線の状態にある。資源減少の一端がこれまでの不十分な保全管理策にあるとの認識を背景に18年に漁業法が改正、MSYという国際基準に即した資源管理の本格的導入が20年から遅ればせながら開始された。

 改正漁業法で、資源管理は資源ごとに漁獲総枠(Total Allowable Catch: TAC / 漁業法では「漁獲可能量」と呼称)の設定を通じた管理を基本とすること(第8条)、資源評価が行われた水産資源についてMSY水準を管理目標水準とすること(第12条)が規定されたことに基づいている。

 しかし、前途は多難である。これまで対象が8魚種のみだった漁獲総枠(TAC)の導入についても、ようやく今月(24年1月)からカタクチイワシとウルメイワシの日本海・東シナ海に分布している系群(対馬暖流系群)が追加されることが決まり、7月からマダラの本州日本海北部系群、翌25年からブリへの導入が予定されているにとどまっている。MSYを基準とした科学的資源管理の導入によって、果たして資源が上向くのか、漁獲が制限され収入が減るだけではないのか、これまでの自主管理で十分ではないのか、との一部漁業者や漁業団体関係者の不安や認識がその背景にある。

 確かに資源減少の要因は、乱獲だけにあるわけではないだろう。温暖化に起因する海洋環境の変化等の要因も見逃せない。また資源管理のベースとなる資源評価にしても、それが本当に現状を正しく反映したものであるかとの不安も、資源管理導入に対する消極論の背景として挙げられる。

 水産予算のうち水産資源調査・評価の項目の下にある予算は年間僅か50億円程度(24年度本予算)であり、十分と言うに程遠い。予算の大幅な増額が必要である。さらに付言すると、漁業者のなかに、資源管理を通じた漁獲と収入の増加という「成功体験」を有するものが非常に少ないということが、管理の本格的導入にブレーキをかけているともいえる。

まぐろの成功体験を生かせ

 他方、世界に目を転じてみると、乱獲による資源の激減という「教訓」と資源管理による資源の増加という「成功体験」は、さまざまなところで目にすることができる。マグロを例にすると、太平洋クロマグロについては先述の通りだが、大西洋・地中海に生息する「大西洋クロマグロ」も、南半球に生息する「ミナミマグロ」も、同様の歴史を辿っている。

 大西洋クロマグロについては、手緩い規制や漁獲枠を無視した違法操業の横行の暴露等により、特に2000年代後半に資源保護措置強化の必要性が叫ばれるようになり、この資源を国際的に管理していた「大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)」は、最大3万トン以上あった漁獲枠を11年には1万2900トンに削減した。違法操業分を含めると約6万トンあったとされている実際の漁獲から鑑みると、約80%のカットと言える。

 さらに違法操業の廃絶を目指して監視を大幅に強化、原則として幼魚の漁獲を禁止した。これにより資源は急速に回復し、これ伴い漁獲枠の増加がICCATで合意されている。

 ミナミマグロは「みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)」が国際的な管理を担っているが、2000年代半ばに日本の大規模な未報告漁獲が発覚。これに伴い日本に対して懲罰的な意味を含めて漁獲枠が半減されたことを契機に資源強化の試みが強化された。


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