2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2024年5月22日

 煮え切らない署の幹部はさておいて、いろいろ調べてみた。丸太の材積は末口二乗法という方式で計算してあるので、確かに長くなれば材積は少なめになる。しかし、幹材積表はそれを見越して長材では補正をかけているから、材積(生産量)が落ちるというのは誤解だ。

 次に請負生産の親方や木材市場の社長に聞いてみると、民間では単価の高い長材生産を主体にしていることがわかった。多い業者では丸太の25%が長材だった。それに比べて営林署はたったの2%だった。署の丸太の年間生産量は2万㎥だから、民間並みに長材を取れば5000㎥、これに土台と長材の差額をかければ、7500万円の増収になるではないか。

業界の常識に目を覚ませ

 さて、次はどうするか。百聞は一見に如かず、木材市場に長材が多く出品されて高く売れている現実を見るため、市売りに現場の作業員たち連れていくことにした。

写真 2 木材市場の椪積

 結果は大成功。翌日作業現場へ行くと、「署長、おれは家畜市場に行ったことはあるが、木材市場は初めてだった」と喜んで、積極的に長材を生産すると言ってくれた。やっぱり自分の生産した丸太が高く売れるのはうれしいのだ。ふだんは山元で伐採や造材ばかりしている人たちが、広い目で木材の生産・流通過程を実感することの大切さを感じた。

 ところが、市場には他の署長も来ていて、「作業員なんか市売りにつれてきたところで、遊ばせているだけじゃないか」と陰口をたたいていたそうだ。まあ、国有林ではそれが〝ふつう〟の認識なのだろう。

 長材の生産にはもう1つ問題があった。国有林材を優先的に随意契約で購入できる地元製材工場は単価の安い土台角用材(4m)を仕入れて単価の高い柱角(3m)に製材して儲けていたので、長材を好まなかった。だから木材市場も長材が増えないように、長材を好む他県の業者に案内を出していないようだった。

 それを察知した経理課長が、他県の業者に電話しましょうかと言うので、もちろんそうしてもらった。市売りの当日、呼んでいない他県の業者が長材を高値で買っていったのをみて、木材市場の関係者が不思議がっていたそうだ。

 だからといって、署長が地元の業者たちと仲が悪かったわけではない。署内で彼らの顔をみれば、すぐに署長室へ引き入れて、いろいろなことを聞いた。

 よい丸太の見分け方、山による品質の違い、価格の動向、他署の噂話など何でも面白可笑しく教えてくれる。中でも筆者と同じ年頃の2代目の連中と仲良くなって、署長官舎で飲み会などしていた。酒やつまみは持ち寄りである。現在みたいにコンプライアンスが厳しくて、業者とろくに話もできないのでは、技術も商才も磨けない。

 こうして筆者が営林署長を交代する時には、長材の割合は15%に上がっていた。たぶん自分の給料の数倍は稼いでいたに違いない。


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