延々と筆者が経験談を述べたのは、この中に国有林の硬直性が集約されているからである。それに風穴を開けるのは容易ではない。
現場の作業員、労働組合、地元の業者たちは既存の利益を守ろうとあらゆる場面で立ち塞がる。筆者のような発想を持った署長も多いだろうが、一番の味方と思われる次長や課長といった営林署の管理者まで抵抗勢力なのだ。改革しようがしまいが署長の給料は変わるわけではないし、みんなに嫌われるのもしんどい。こうして何も変わらないのである。
しかし、最初は嫌われても理屈を通せば、みんな理解力がある。だれでも正しいことをやりたいのだ。あるとき熊本営林局から労務監査が入った。どうも多良木営林署は札付きの労務事情の厳しい署だったらしく、担当の監査官はへっぴり腰でやってきた。ところが聞くと見るとは大違い、「ずいぶんいい雰囲気ですね」と開口一番に言った。
前向きにやると職員の意識も変わる。誰だって仕事は楽しくやりたいに決まっている。筆者が署長になって1年目は毎月1回以上やっていた労働組合との団体交渉は、2年目には年2回に激減した。その分仕事もはかどる、楽しさ倍々というわけだ。
立木販売が国民経済的に有利
以上のように、国有林における製品販売は、造材(丸太の製作)をみただけでも、利益の追求の甘さが目立つ。
国有林の立木―[販売契約]→素材(丸太)生産業者―(丸太販売)→木材市場・製材所
製品販売の流れ(直庸と請負がある)
国有林の立木― [直庸作業員による素材生産] ―[丸太販売]→木材市場・製材所
国有林の立木―[請負契約]→ 素材生産業者 ―[丸太販売]→木材市場・製材所[○○]が国の仕事である。
立木販売ならば、最初の立木販売契約1件のみで終わりである。
製品販売の場合は、直庸なら素材生産のすべての工程管理から、多数の丸太販売契約が必要となり、厳格な国の会計事務が重い負担になる。請負でも販売契約の手間は変わらない。
これだけ見ても、付帯事務が少ない分、立木販売が有利なことは明らかである。それに加えて造材の質が素材生産業者の方が高いわけで、高く売れる丸太を作れば、高く売れる製材品(柱、板など)ができ、末端の消費者まで喜ぶ。国民経済的にはよい品づくりをできる立木販売の方が圧倒的に有利である。
結局、民間による高い採材技術が国民全体の利益につながり、国有林も事務量を大幅に軽減できるのだから、国有林では立木販売以外の選択肢はないはずである。