2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2024年5月22日

競争入札が随意契約の3倍

 ところで立木販売にも随意契約と一般競争入札の2つがある。

 現在では自然保護の観点からないと思うが、かつて広葉樹天然林(200年生以上)の立木販売があった。カシ類、ケヤキ、イスなどの常緑・落葉広葉樹に加えて、アカマツ、モミ、ツガなどの針葉樹も混生していた。

写真 4 高齢天然林

 地元製材所向けの随意契約で、広葉樹製材協同組合、モミ・ツガ(陶器の化粧箱用など)製材協同組合、パルプ・チップ業者の3者の共同買受だった。買受者に見積を提出させ、予定価格以上なら契約成立だ。

 ところが同様な物件を一般競争入札にかけると、予定価格の3倍の値がつく時があった。結局、国有林(税負担者としての国民)は予定価格の2倍の損をして、その分は買受者の懐に入ったものの、国民経済的には損はしていないと考える。なぜなら、この立木物件の価値を最大限引き出すことが、国民経済的にはベストなのであって、国の損得にこだわる必要はなく、業者、消費さを含む全国民が潤うことが大事なのだ。

 確かに広葉樹業者の樹種の選別や採材はすばらしい。国有林ならチップ材となるようなものでさえ、しっかり細かく仕分けして工芸品用などにも出荷して、利益を出すように考えている。国有林という国民の財産を利用して、よいモノづくりをすることが、国民しいては国の最大の利益につながると確信する。

四面楚歌から抜け出す

 この販売事業をみただけでも、世間の常識では測りがたい事情が多数浮かび上がる。そしてその事情を直そうとするとさまざまな障害にぶつかる。

 現場作業員からも、その代弁者である労働組合からも横槍が入り、そして事なかれ主義の営林局からは問題を起こすなというご指導がある。地元の優遇措置を受けている業者は業者で、改革を好まない。まさに四面楚歌とはこのことだ。

 筆者のように諸事情を〝知らぬが仏〟の素人署長だからある程度の改善はできたが、一番の味方であるはずの次長や課長でさえ本音はめんどくさい若造署長がきたと思っているはずである。しかし、要は現場作業員たちが木材市場で見聞して納得したことで、労働組合も黙認し、営林署で問題にならなければ営林局は出てこない。

 こうした風穴を開けたことは大きかった。いつも労働組合にぺこぺこしている営林署の管理者たちでもたまにはいいことができるじゃないか。筆者と同年配の現場の主任クラスや森林官たち、もっと年の若い閉塞感に苛まれている職員に、ちょっと希望を持たせることができた。

 このような国有林の事態を招来したのは、根っからの技術軽視にあると断じる。それは次回以降で話したい。

 

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