2024年6月24日(月)

経済の常識 VS 政策の非常識

2024年5月23日

 巨額の補助金は経済安全保障の観点から正当化されているようだが、防衛費を北大西洋条約機構(NATO)並みのGDPの2%にするのなら、経済安全保障のための製造補助金も米国並みのGDPの0.2%で良いのではないか。少なくとももっと議論が必要だ。

日本の産業政策は昔から敗者支援型

 敗者復活と言ったが、復活するかどうかも分からない。台湾の企業に補助金を払って日本で製造してもらうなら、確かに製造基盤は復活するが、ラピダスはまだ生産したことがない。実は、日本の産業政策は、昔から敗者優遇型だった。

 ハーバード大学ビジネススクールの竹内弘高教授は、90年代に日本が競争力をもっていた20の産業(自動車、カメラ、カーオーディオ、炭素繊維、連続合成繊維織物、ファクシミリ、フォークリフト、家庭用エアコン、家庭用オーディオ、マイクロ波・衛星通信機器、楽器、産業用ロボット、半導体、ミシン、醤油、トラック・バス用タイヤ、トラック、タイプライター、VTR、テレビゲーム)と、競争力をもっていなかった6つの産業(民間航空機、証券業、ソフトウェア、洗剤、アパレル、チョコレート)を比較している。

 前者の成功産業では、政府の役割はまったく存在しなかったが、後者の失敗産業においては政府の広範な介入があったという。例えば証券業界では、手数料は固定制で、社債・国債発行における市場シェアは企業別に割り当てられていた(竹内弘高「第5章 日本型政府モデルの有効性」、貝塚啓明・財務省財務総合政策研究所編『再訪 日本型経済システム』有斐閣、2002年12月)。

 現在の日本の産業政策も、全方位型・敗者復活できないかもしれない産業政策になっているのではないか。負けてしまったことには理由があり、それが必ずしも補助金で解決されるわけではないだろう。一時は隆盛を誇っていた商品や事業も時代の流れによって衰退してしまうこともよくあることで、時には撤退する勇気も必要だ。

 すべての産業の発展するのではなく、世界でも比較優位の高いものに注力する姿勢も求められるのではないだろうか。

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