2024年4月29日(月)

経済の常識 VS 政策の非常識

2023年11月24日

 低金利が、生産性の低いゾンビ企業を存続させ、結果、生産性も給料も上がらないという議論がある。しかし、このようなゾンビ企業論については、2つの誤りがある。

(gorodenkoff/gettyimages)

 第1は、ゾンビ企業、すなわち生産性の低い企業であり、生産性の低い企業を退出させれば残りは生産性の高い企業になるから、平均でも生産性が上がるという考え方である。確かに、効率の低い企業が退出すれば、残った企業は効率の高い企業なので、経済の効率は平均として高くなるかもしれない。しかし、効率の低い企業が退出して失業が増えたら国民にとっての経済の効率は低下する。

 働いていない人の生産性はゼロだから、働いている人の生産性が上がっても、すべての日本人の平均の生産性は上がらない。これについては、本欄「「ゾンビ企業」は日本の経済効率を下げる元凶なのか?」(2023年6月29日)ですでに述べたので、第2の誤りについて説明したい。これは、ゾンビ企業がどういう企業なのかということについての認識の誤りである。 

ゾンビ企業の定義とは

 ゾンビ企業とされている企業の実態は、一部のエコノミストや政府が考えているものと違うということだ。

 ゾンビ企業は、通常、利払いが利益の大部分を占めるような企業とされている。利益が上がらず、債務整理のために生きているような企業はゾンビで、効率が悪いということだろう。

 国際決済銀行(BIS)のレポート(Banerjee, R. N., and B. Hofmann, "Corporate Zombies: Anatomy and Life Cycle," BIS Working Papers, No. 882, September 2020)には、ゾンビ企業をインタレスト・カバレッジ・レシオ(利払いに対する営業利益+受取利息・配当金の比率)が1未満で、時価総額合計を資産総額で割った「トービンのq」が産業セクターの平均よりも2年以上にわたって低い企業をゾンビ企業と定義し、ゾンビ企業の比率がどのように動いてきたかを示している(11頁)。

 この定義によると、ゾンビ企業比率は日本がピークで12%だが、米国は18%、英国は20%、ドイツは20%、フランスは15%である。また、日本、ドイツは2010年以降低下しているが、米国、英国、フランスは上昇している。

 BISレポートの最新時点で米国のゾンビ企業比率18%に対し、日本は3%でしかない。これはむしろ、日本の企業が借金をしなさすぎということを表しているのだろう。


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