いわゆるゾンビ企業が日本経済の効率を大きく下げているという議論が根強い。例えば、「ゾンビ企業が大幅に増加した産業における生産性の上昇は低い」という指摘がある(星武雄、アニル・K・カシャップ、『何が日本の経済成長を止めたのか』30頁、日本経済新聞出版社、2013年)。
ゾンビ企業とは、一般に、効率が低く、借金まみれで健全な経営状況にないにもかかわらず、銀行から追加融資を受けることで市場に残っている企業である。これによって市場の新陳代謝が遅れ、不況が長引くというのである。具体的には、利益に比して支払利息が多すぎる企業がゾンビ企業とされる。政府も6月16日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2023」、いわゆる「骨太の方針2023」で、こうしたゾンビ企業の退出を促す政策を実施する姿勢を見せている。
ゾンビ企業の何が問題なのか
確かに、経済が効率の高い企業と低い企業から成り立っていて、そこに低い企業があれば平均した効率は低下してしまう。だから効率の低い企業はない方が良いというのはその通りである。しかし、経済には競争があって、本来、効率の低い企業は存続できないはずだ。だから、ゾンビ企業が経済の大きな比重を長期的に占めていて、その存在ゆえに、日本経済の成長率が大きく低下するとは信じられない議論である。
また、効率が悪いと言っても、経済学の企業の理論で最初に教えられることは、企業活動には、損益分岐点と操業停止点があるということだ。損益分岐点とは、固定費を賄って利益が上がっているぎりぎりの状況だ。固定費は、多くが資本コストだから、損益分岐点以上であれば、資本効率も高い。
操業停止点とは、固定費は賄えないが、変動費を賄えるぎりぎりの状況だ。操業停止点以上なら、赤字で資本効率が低下しているが、それでも操業を続けた方がいいというのが、入門経済学の教えるところだ。ゾンビ企業を止めろというのは、入門経済学に反する主張である。
一橋大学経済研究所の深尾京司教授も、「(ゾンビ問題で)説明できるのは1990年代の日本経済全体のTFP[全要素生産性]停滞のごく一部に限られる」と述べている(深尾京司『「失われた20年」と日本経済 構造的原因と再生への原動力の解明』194頁、日本経済新聞出版社、2012年)。
さらに、大きな疑問がある。効率の低い企業を追い出せば、効率の高い企業ばかりになるのかもしれないが、退出した企業に雇われていた人々は仕事もなしに追い出されることになる。また、生産設備も無駄になる。