そうするとゾンビ企業を追い出して現実に生ずることは、効率の高い企業と失業者と効率の低い企業で使われていたが今は使われていない生産設備である。失業者の生産性も、使われていない設備の生産性もゼロであるから、平均の生産性はむしろ低下してしまうのではないだろうか。
一人当たりのGDPか、働いている人当たりのGDPか
大事なのは、働いている人々の労働生産性ではなく、失業者も含めた国民一人当たりの生産性ではないだろうか。一人当たりの生産性は実質国内総生産(GDP)÷人口、働いている人の生産性は実質GDP÷総労働時間である。
すると、定義的に、実質GDP÷人口=(実質GDP÷総労働時間)×(総労働時間÷人口)となる。すなわち、一人当たりのGDPは、働いている人の生産性が高いほど、一人当たりの労働時間が長いほど高くなる。なお、ここで実質GDPは実質購買力平価GDPを用いている。大きく変動する為替レートとは違い、各国の経済水準を適切に表すからである。
図1は、1980年から現在まで、これらの数字がどのように変化してきたかを、日米英独仏伊について示したものである。グラフの上の数字は一人当たりGDPの伸び(年率)を表したもので、グラフ内の数字は、それぞれ(実質GDP÷総労働時間)と(総労働時間÷人口)の伸びを示したものである。
日本の一人当たりGDPは1980年代に3.9%と米国の2.3%より高かったが、90年代には1.0%と米国の2.2%より低くなった。2000~10年には0.5%と米国の0.8%との差を縮めた。2010~22年には0.8%とわずかながら伸びを高めたが、米国は1.4%と、差はむしろ開いた。
ここで日本の一人当たりGDPの伸びが大きく低下した1990年代についてみると、その要因は一人当たりの労働時間がマイナス1.2%になったことであると分かる。労働時間当たりGDPの伸びは、2.2%と米国の1.8%よりも高いのだ。
その後、2010~20年では米国の2.2%よりも低いが、他の先進国並みの1.1%、2010~22年では0.8%と米国の0.7%より高くなった。すなわち、特に1990年代に、日本の一人当たりGDPが他国より伸びなくなった大きな原因は、労働時間当たりのGDPが伸びなかったことよりも、一人当たりの労働時間が減少したことにある。
なお、米国の2000~10年の労働時間が減少し、2010~22年の労働時間が増加したのは、09年のリーマン・ショックの影響で雇用が大きく減少した後、急激に回復するという米国経済のダイナミズムを示しているのだろう。
日本の労働時間が大きく低下しているのは、もちろん、日本の高齢化が他の国よりも厳しく働く人を集めるのが難しいということもあるが、多くは失業率上昇の結果である。1980年代2%余りだった失業率が1990年代から上昇し2010年頃まで4%となり、その後、2%余りに低下したからだ。
すなわち、働いている人の生産性はもちろん大事だが、国民全体の生産性はもっと大事だということだ。また、失業率が低くなれば、企業が人材を求め、高い賃金を払ってくれないゾンビ企業から労働者が流出するだろう。これは失業者を生まない過程である。