2024年6月29日(土)

教養としての中東情勢

2024年5月29日

 ネタニヤフ首相の最大の政敵であるガンツ元国防相もラファ攻撃停止の国際司法裁判所の仮処分には強く反発し首相を擁護、また国際刑事裁判所による首相への逮捕状請求も一蹴した。ベングビール国家治安相は初代首相・ベングリオン氏の言葉を引用し「イスラエルの未来は異邦人が何を言うかではなく、ユダヤ人が何をするかにかかっている」などと投稿した。

 「国際的な圧力が国内を結束させるという構図だ。ネタニヤフにとっては好都合。爪で戦うなどはユダヤ人の琴線に触れる。“ユダヤ人いじめ”を政治的な生き残りのチャンスと計算している。誰もいじめに立ち向かう、という大義には逆らえない」(ベイルート筋)。

ガザ改造計画

 しかし、ネタニヤフ首相の反対派の不満が溜まりに溜まっているのも事実だ。ガンツ氏は首相が6月8日までに「戦後のガザの統治のあり方」などを明確にしなければ戦時内閣を離脱すると最後通告した。同氏は中道の「国家団結党」を率いる党首で、首相と敵対し、本来は政権には入っていなかった。

 だが、ガザ戦争の勃発で、首相に請われて戦時内閣の一員として入閣したが、首相の戦争運営には批判的だ。最大の問題は首相がハマスに捕らわれている人質の解放を二の次にし、自らの政治生命を延ばすことに躍起になっていると見ているからだ。

 戦後のガザ統治についても、イスラエルの占領状態を維持したい首相とガザからの撤収を主張する同氏の見解は異なっている。ガンツ氏はハマスが排除されたガザの統治を米国と欧州、アラブ諸国、パレスチナ人で構成される行政府に委ねる案を提示している。

 首相にとって痛いのは同じ政党リクード出身のガラント国防相がイスラエルによるガザ支配に反対を表明、「ハマスに代わる政体をただちに作る」よう要求したことだ。背景には、ハマスとの戦闘では約270人の兵士が戦死しており、これ以上の犠牲者を出さないことを軍が重視している事情がある。

 しかし、こうした政権内の亀裂の一方で、戦後の安全確保の措置は着々と進められている。その1つがガザの改造、具体的にはガザの細分化だ。改造計画はガザを5つに分断することでパレスチナ人を監視していくことが主眼。北部のガザ市の南方にはイスラエルからガザを横断して地中海まで続く主要道路「ネトザリム」を建設、パレスチナ人の活動を防ぐ拠点にする考えという。

「超正統派」の徴兵問題が最大の懸案

 ガンツ元国防相が最後通告した通り、戦時内閣を離脱した場合、ネタニヤフ政権が崩壊するかと言えば、そうはならない。政権が議会の多数派、120議席のうち64議席を握っているからだ。ガンツ氏の離脱で、国難に挙国一致で対処という形は薄まるものの、政権の存続ということでは揺るがない。

 戦後のガザ統治をめぐり首相と対立するガラント国防相が与党リクードの仲間を引き連れて政権を離れる可能性も小さい。むしろ、首相にとっての最大の懸案はユダヤ教の「超正統派」政党との徴兵制をめぐる協議の行方だ。この件は徴兵の公平性の観点から問題が多く、首相にとっての“爆弾”だ。


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