2024年7月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年6月3日

 ウクライナ政府も、軍を増強することと防御陣地を固めることに甚だしく手間取ったことにより、ロシア軍の進撃を可能にした。ロシアがウクライナとその周辺で兵力を50万近くに増強したのに対し、ウクライナは前線に約20万を有するに過ぎない。ウクライナのマンパワーの不足はかねて明らかだったが、議会がようやく新たな動員法を可決したのは4月である。

 また、ウクライナはその国境と前線の要塞化に甚だしく遅れをとった。これがロシアの進撃を可能にしつつある。

 3月にゼレンスキー大統領は3列の防御線を1200マイルにわたって要塞化するとの計画をやっと発表した。これらの防御線は構築されつつあるが、本来、何カ月も前に構築されているべきものだった。

 ウクライナにはこれらの挫折から立ち直る時間はまだある。新たな要塞化とさらなるウクライナ兵の動員が、米国の武器弾薬の大量の流入と相俟って、ロシアの進撃を止め、戦線を安定化するはずである。もし、バイデンが米国の武器でロシア領内の軍事目標を攻撃することに対する制限を解除すれば、大きな助けとなろう。しかし、情勢は差し迫っている。

*   *   *

プーチンがハリキウを選択した理由

 5月10日、ロシア軍は奇襲を開始し、ベルゴロド州から防御が全く手薄なハリキウ州との国境を越えて、15日には国境から5キロメートルのウォウチャンスクに達し、また、リプツィ(ハリキウはリプツィから砲撃の射程内となる)に向けても軍を進めているようである。この論説は事態がここに至った背景を的確に描写している。

 ロシアがハリキウ州を選択した狙いについて、記者に問われたプーチン大統領は、ウクライナの越境攻撃からベルゴロド州を守るための「緩衝地帯」を作ることだと言及した――ベルゴロド州はウクライナのドローンやミサイルによる攻撃、あるいはウクライナを拠点とする民兵の越境攻撃に晒されて来た経緯がある。

 ハリキウ市の奪取がロシアの目標となるかを記者に問われたカヴォリ北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍最高司令官は、侵攻したロシア軍にはそのような戦略的ブレークスルーの達成に必要な兵力と技量は備わっていないと応答した。しかしながら、ウクライナは急ぎドンバスその他の地域から兵力を廻してハリキウ地域の防衛に当たらざるを得ず(現にドンバスの兵力を割いているようである)、ウクライナの少ない兵力は更に薄く伸び切ることを強いられ、今後の戦局に重大な影響を及ぼすであろう。


新着記事

»もっと見る