2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年6月4日

 バイデンは、中国が米国のルールを遵守するために取るべき措置のリストを示さなかった。そもそもルールがないからだ。歴代の米政権が世界貿易機関(WTO)の運営を無力化してきたため、不公平な中国の補助金を判断することができなかったからだ。バイデン自身もインフレ抑制法により米国のグリーンエネルギーに補助金を出している。

 米国の保護主義のもう一つの動機は、国家安全保障だ。それは「小さな庭、高い柵」と呼ばれる。

 これにより汎用半導体や関連装置の対中輸出は禁止されている。これが中国の軍備拡張を遅らせるか、それとも中国が高付加価値産業への転換を加速させるかは、分からない。ただ、潜在的な敵への軍事技術販売には理屈がないとするバイデンは正しい。

 米国は、戦後に自らが作ったルールの維持に疲れ果てている。核兵器は恐らく世界大戦の再発を防ぐだろう。

 今日の最大の脅威は、地球温暖化だ。5月14日のバイデンの措置は、米国のエネルギー転換を遅らせ、米国を中国とのゼロサム競争に向かわせる。唯一説得的な理由は、選挙を有利にするということだけだ。

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なぜ、米国は中国と交渉しない

 バイデンは5月14日、1974年通商法301条に基づき、EV、半導体、医療用製品など7項目にわたる中国からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げると発表した。

 大統領府のファクトシートによると、具体的には①鉄鋼アルミの関税を25%から50%へ、②半導体の関税を25%から50%へ、③EVの関税を25%から100%へ、④リチウムイオンEV電池・その他電池部品の関税を7.5%から50%へ、一部の重要鉱物の関税をゼロから25%へ、⑤太陽光パネルの関税を25%から50%へ、⑥港湾クレーンの関税を0%から25%へ、⑦医療産品につき、注射器・注射針の関税は0%から50%へ、マスク等個人保護具の関税は0~7.5%から25%へ、医療用ゴム手袋は7.5%から25%に引き上げる。中国からの輸入品180億ドル相当が対象になる。

 上記論説で、ルースは5月14日のバイデンの関税引上げにつき極めて批判的である。しかし、ルースは、バイデンの14日の関税引上げにつき秋の選挙に勝つのであれば米の民主主義のためとしてそれを事後的に認め得ると考えているようだ。しかし、やはりバイデンの今回対中関税は貿易政策としてはおかしい。

 米国は、中国にその不公正な慣行を止めさせるのではなく、米国の側が保護主義になることによって自国を防御しようとしているようだ。防御するよりも、なぜ80年代に米が日本に対して圧力をかけたように圧力と交渉で中国を変えさせようとしないのか。


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