2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2024年6月4日

韓国は「宣伝放送」で対抗

 汚物風船が韓国で発見された翌日の29日、金正恩朝鮮労働総書記の妹、金与正氏は談話を発表して、「われわれが数年間、問題視して中断を要求してきた汚らわしい物品散布劇に自身が直接遭ってみて、たった一日で白旗を掲げて降伏した」としながら、「今後、韓国の連中がわれわれに散布するごみ量の数十倍で対応するということを明らかにする」と、改めて警告した。

 それから週末を挟んで、北朝鮮と韓国はお決まりの声明合戦を繰り広げた。韓国統一部が「やめなければ、耐え難いようなあらゆる措置をとる」と警告し、その手段として、38度線での巨大スピーカーからの宣伝放送を示唆すると、北朝鮮は「(汚物風船の打ち上げを)暫定的に中止する」と態度をひるがえした。

 北朝鮮が態度を急変させた理由は、巨大スピーカーからの宣伝放送にある。夜間には20キロメートル以上先まで届く放送を北朝鮮軍の兵士や住民は密かに楽しみにしており、心理戦の効果は抜群だ。金与正氏は韓国が一日で白旗を掲げたと揶揄したが、天に唾する結果となった。

 はたして、朝鮮半島を舞台にした心理戦のチキンレースがどこまで拡大するのか皆目見当もつかないが、これで終わりになったわけではないだろう。

 北朝鮮は周知のとおり、面子にこだわり、やられたら必ずやり返す。一方の尹錫悦大統領は4月の国会総選挙で、自身が率いる与党が敗北し、野党が過半数を獲得したばかり。北朝鮮に弱腰の態度をとると、保守層の離反を招く。

 譲れない一線に足をかけている南北両首脳に冷静な判断は期待できないが、風船がミサイルに、汚物が爆弾に変わらないことを祈るばかりだ。

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