2024年12月3日(火)

WEDGE REPORT

2024年6月4日

 5月27日、韓国・ソウルで4年ぶりに日中韓首脳会議が開かれた。この首脳会議は、1999年にフィリピン・マニラで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)+3(日中韓)首脳会議で小渕恵三首相が呼びかけて、朝食会という形で実現したことが契機だ。それから毎年、同会議にあわせて、経済問題を中心に地域問題などについて話し合われてきた。

 新型コロナウイルスのパンデミックによる中断を経て、ASEAN+3首脳会議から初めて切り離して行われた会議の行方は耳目を集めた。だが、あろうことか、北朝鮮が予想外の反発を見せることになる。

北朝鮮に効いていた韓国の「ビラ風船」

 その発端となったのは、日中韓首脳会議の共同宣言に盛り込まれた「朝鮮半島の非核化」という文言だ。北朝鮮は2012年に憲法を改正して、「核保有国」であることを明記し、22年には核兵器の使用条件などを法制化している。つまり、北朝鮮の立場からすると、朝鮮半島の非核化は国家の全否定に他ならない。

 公式メディアである朝鮮中央通信は27日、「国家の神聖な主権を侵害する敵対行為をいささかも許さないだろう」という外務省スポークスマン声明を発表した。声明には「朝鮮民主主義人民共和国憲法を全面否定する重大な政治的挑発、主権侵害」、「いささかも黙過できない冒涜であり、宣戦布告である」と、過激な言葉が並ぶ。

 そして、北朝鮮は「宣戦布告」に対して、想像を絶する反撃を加えた。

北朝鮮が韓国に向けて飛ばした「汚物風船」(Incheon Fire Headquarters/AP/アフロ)

 韓国・国防部は28日夜、日本のJアラートのような国家災害管理情報システムを通じて、「空襲予備警報」を発令。その文面は、「北朝鮮の対南宣伝ビラと推定される不明物体を発見。野外活動の自制と発見時は軍部隊に申告」というものだった。

 一夜明けると、風船にぶらさげられたトイレットペーバーやゴミ、堆肥などが38度線沿いとソウルを中心に260個近く発見された。「ウンコ風船爆弾」とも言うべき汚物風船の飛来は、16年から9年ぶりのことであった。

 実は、この反撃には伏線がある。韓国憲法裁判所は昨年9月、北朝鮮との交流を規定する「南北関係発展に関する法律」の一部に違憲判決を下した。これによって、38度線付近からのビラ散布を禁じた内容が無効になり、韓国民間団体による金正恩体制を批判するビラなどを載せた風船の打ち上げが、「表現の自由」の下で許容された。

 ここで多くの方は、体制批判ビラに一体どれほどの意味があるのかと疑問に思うだろう。筆者は過去に多くの脱北者にインタビューしてきたが、実のところ、韓国によるこれら「心理戦」は効果絶大で、北朝鮮が最も恐れる攻撃の一つになっているのだ。


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