それが今度は数週間前に考えを変えて、クリミアに到達可能なATACMSを供与した。5月17日にウクライナはセヴァストポリのロシア艦艇をATACMSで攻撃したようだが、ロシアからエスカレーションは起きなかった。ウクライナに対しては一刻も早く、戦争を戦いそして勝利する最善の機会を与えるべきだ。
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禁止されていたロシア領内への攻撃
本論説は、ウクライナに供与する兵器システムの使用において、ロシア領内への攻撃を禁じることの非合理性を軍事的観点から論じ、その制限を解除することを訴えたものである。
西側諸国による対ウクライナ支援が開始されてより、供与されるすべての兵器システムは基本的にロシア領内の攻撃には使用しないことが条件づけられていた。かかる制限の非合理性についてはこれまでも指摘されてきた。
今年5月、ロシア軍がハルキウ州への猛攻を開始しウクライナ軍の劣勢が顕著になり出した頃から、各国から、ロシア攻撃の制限解除への議論が起こり、5月31日、ブリンケン米国務長官は「国境のロシア側に所在するロシア軍」に対する攻撃を認める旨を公式に確認した。
今後、ウクライナの戦いはある程度改善されるだろう。今次決定がウクライナにとって極めて重要な意味をもつものであることを確認した上で、以下の三点を指摘しておきたい。
第一は、「国境越え」承認には一定の距離的な制限が付されているようであるが、攻撃可能な距離的範囲について、供与した兵器システム本来の能力に制限を課すべきではない。米国政府は精々40キロメートル(㎞)程度までの「越境」承認にとどめている可能性があるが、既に供与されているATACMSの射程は約300㎞である。
スウェーデン国防省は、ウクライナに対し新たに早期警戒管制機(Saab340 AEW&C)を供与する旨発表している。最大目標探知半径500㎞とされる同機を所有しながら、ミサイル発射は数十キロに制限されるのでは意味がない。
特に今後F-16が使用可能となった場合にはAWACSが重要な役割を果たすところ、それでも射程距離に制限が付されていたのでは航空優勢を確保することができず、部隊や市民の犠牲が続くことになる。結局は早晩、遠方の空軍基地やレーダーサイト等を攻撃する必要に迫られることになるだろうから、今からそれを認めるべきである。しかも越境可能な距離に制限がかけられていることを公開情報で示唆することは、支援の効果を削ぐのみらず、相手を戦いやすくしてしまう。