2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年6月19日

 第二に、今回の決定を経て、ウクライナ支援の最終目標をどこにおくのか、曖昧さを維持することが徐々に困難になっていくということがある。ウクライナ支援に言及される指標は「必要な限り」支援するという曖昧なものであった。

 そのような中、昨年12月、バイデン大統領は訪米したゼレンスキー大統領との会談後初めて「ウクライナの勝利を望んでいる」と述べた。侵攻開始から2年近くが経過してようやく、ウクライナの「勝利」が支援の目標として語られ、具体的な支援のあり方が、それに関連づけられるようになった。

ロシアの核の恫喝に屈するな

 第三に、懸念すべき事として、ロシアによる核の恫喝にどう対処すべきかとの問題がある。ロシアは侵攻の早い段階から脅しのための発言を繰り返し、昨年2月には新START条約の履行を停止し、同年6月にはベラルーシへの戦術核配備の開始を表明し、11月には包括的核実験禁止条約(CTBT)への批准を撤回する法律を可決、その上で本年5月中旬にはウクライナに隣接する南部軍管区で戦術核を使った演習を実施した。

 今回の「国境越え攻撃」承認に向けた動きとの関係でも、プーチンは「深刻な結果を引き起こす可能性」に言及した。欧米諸国がウクライナ支援に制約を課し、躊躇することがあるのは、ロシアとの核戦争に発展する可能性を懸念するからである。

 果たしてロシアが「脅し」を「実行」に移す時が来るかどうか、それは誰にも分からない。しかしながら、本論稿に指摘されている通り、これまでロシアが繰り返し指摘してきた「レッドライン」は、結果的にそれを超えたからといって何ら特別のことは起こっていない。

 何よりも重要なことは、ロシアが展開しようとしている認知戦に屈することなく、北大西洋条約機構(NATO)としてはロシアによる核使用の場合に生じ得る事態につき、明確なメッセージを送り続けることである。

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