2024年6月21日(金)

BBC News

2024年6月15日

ケイラ・エプスティーン BBC記者

(文中敬称略)

ウィリアム・C・モイヤーズは、ハンター・バイデンがどういう道をたどってきたのか、多少は知っている。

自分は若いころ、クラック・コカインに依存していた。そして、家族の支援を受けながら、依存症離脱のための治療を受けた。

今では、「ヘイゼルデン・ベティ・フォード財団」の広報担当役員として、同じ道をたどる人の支援を提唱している。財団の名前は、元大統領夫人の名前にちなんでいる。

デラウェア州の陪審団は11日、薬物中毒に関連する重罪3件について、アメリカ大統領の息子に有罪の評決を下した。モイヤーズはその時、これはひとつの機会だと考えた。アメリカで実に一般的な問題が、決して一般的でない家族にも影響しているのだと示すための。

「ハンター・バイデンの物語は、あまりにも多くのアメリカ人が身近に知っている物語だ」と、モイヤーズは言う。

「このことを通じて私たちが、むやみやたらと非難するのをやめて、むしろ依存症は公衆衛生の危機なのだと、そして依存症から回復は可能なのだと、そう認識できるようになれば、それは良いことだと思う」

薬物利用と健康に関するアメリカの全国調査によると、2022年の時点で、12歳以上のアメリカ人の4900万人近くが、過去1年の間に薬物やアルコールなど何らかの乱用障害に苦しんでいた。

そして、今年3月の米医学誌「アメリカ医師会誌(JAMA)」に掲載された研究によると、薬物の過剰摂取で死亡した人を知っているというアメリカ人は全体の3割に及んだ。

連邦検察は、ハンター・バイデンが2018年10月、銃を入手するための書類に、自分の薬物使用について虚偽を書いた罪で彼を起訴した。

被告人は無罪を主張した。そして弁護団は、違法薬物の使用や依存症の有無を問う書類に「ノー」と答えた時点で、彼は薬物を使用していなかったと主張した。

しかし、陪審団は11日、約3時間の評議の末、有罪と評決した。

現職大統領の子供が重罪で有罪になるのは、史上初めてだ。しかし、数日にわたる審理は、大統領の家族でさえ依存症の問題と無縁ではいられないことを示した。そして、アメリカ各地で何百万人もの人が、どのような苦しみと闘っているのかを浮き彫りにした。

「おそらくアメリカのすべての家族に、沿岸部に住む人だろうと中部だろうと、だれか一人は近親者や親類に、薬物使用障害を経験した人がいるはずです」と、アメリカ依存症センターのミシシッピ州支部で医療部長を務めるルーカス・トラウトマン医師は話す。

それでも今回の裁判では、ハンター・バイデンが薬物に依存していた時期の暮らしぶりについて、屈辱的な内容があらためて取りざたされた。かつては、父ジョー・バイデンに敵対する勢力が、攻撃の材料にしていた内容だ。

政治的な武器として使われれば、マイナスの影響を与えかねない画像もある。

「治療を求めやすい状態にするため、私たちは絶えず、依存症治療は恥ずかしいものではないと、そうアピールしています」と、トラウトマン医師は言う。

「薬物乱用障害を患う公人を、政治的利益のために利用し、悪しざまに語れば、そのたびに、依存症で苦しむほかの人たちをも否定し、悪い烙印(らくいん)を押すことになりかねない」

ハンター・バイデンは2015年に兄ボーが病死した後、薬物依存症となった。裁判はこの暗い時期に焦点を当てた。本人は、5年前から回復し続けていると話す。

公判では証拠として、薬物利用の器具を手にしたハンター・バイデンの生々しい画像が、陪審に提示された。本人の回顧録「Beautiful Things(美しい物)」から、当時を振り返った個所の朗読も再生された。

「伯父が亡くなった後、事態は悪化しました」。ハンター・バイデンの娘、ナオミは裁判で涙をこらえながらこう証言した。

検察側は、ハンター・バイデンが「クラックを吸いながら車の上で寝ている 」と書いたメッセージを法廷で示した。

注目を集めたこの裁判において、依存症の姿が赤裸々に示されたことで、依存症と説明責任についてこれまでより有益な対話につながる可能性があるという、関係団体の専門家もいる。

「依存症について、世間に知ってもらう必要がある。世間の人が依存症を話題にすることで、患者を総体的に支援するための政策と戦略と道具を開発していく必要がある」。依存症患者の家族を支援するプログラムに携わる「依存症を終わらせるパートナーシップ」の幹部、パット・オーセムはこう言う。

アメリカでは、依存症について国民がどのような会話をするのか、それを大統領の家族が決定的に変化させ、そして改善し続けてきた経緯がある。

故ロナルド・レーガン元大統領の娘、パティ・デイヴィスによる寄稿が10日、米紙ニューヨーク・タイムズに掲載された。その中でデイヴィスは、薬物依存で苦しんだ自分自身の格闘について、そして大統領の家族としてことさらに回復を強く求められた独特の圧力について書いた。

「歴代大統領の家族は、薬物使用の問題とずっと闘ってきた」。故ジェラルド・フォード元大統領の妻、ベティ・フォードが設立した複数のクリニックで働く、モイヤーズはこう言う。ベティ・フォード元大統領夫人は1970年代に、自分が依存症で苦しんでいることを公表し、社会のタブーに挑戦した人なのだ。

「ソーシャルメディアがあまりにも注目されるこの時代、依存症をめぐる議論や会話は、かつてないほど強烈なものになっていると思う」とモイヤーズは話した。

(英語記事 'Hunter Biden’s story is a story that all too many Americans know'

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cxxx635k94lo


新着記事

»もっと見る