中東の大国サウジアラビアがこのほど、中国が主導する中央銀行デジタル通貨プロジェクトに加わることが明らかになり、その真意をめぐってさまざまな憶測が飛び交った。浮き彫りになったのはサウジを牛耳るムハンマド皇太子の米中を手玉に取る究極の“サウジ第一主義”だ。
米国への牽制球
サウジは対外関係については第2次世界大戦後、米国との関係を軸に展開してきた。その基本は米国がサウジに安全保障を提供し、その見返りにサウジが石油を供給するという構図だった。
だが、この関係が大きく変わったのはサウジに国家改造を掲げるムハンマド皇太子が登場し、米国に民主主義の理念を重んじるバイデン大統領が就任してからだ。
バイデン大統領は元々、政敵のトランプ前大統領と親しく、独裁者といわれる皇太子とは肌が合わない。皇太子によるサウジ反体制派ジャーナリストの暗殺事件で、バイデン氏が嫌悪感を示し、関係は冷え切った。2人の仲が悪化したのは皇太子がバイデン氏の石油増産の求めを退け、減産を推進したためだ。
皇太子はバイデン政権との距離を置く一方で、中国との関係を深めていった。2022年には中国の習近平国家主席が首都・リヤドを訪問し、戦略的パートナーシップ協定に調印。23年には中国の仲介で断交していたイランとの国交を回復した。今回の中国主導のデジタル通貨プロジェクトへの参加もこうした対中関係強化の一環と言えるだろう。
だが、ムハンマド皇太子が親米から中国寄りに舵を切ったと見るのは早計だ。「米国に牽制球を投げ続けているというのが妥当な見方だ。4月にイランがイスラエルに弾道ミサイルを撃ち込んだのを目の当たりにし、サウジにとってイランの脅威はより高まった。皇太子はイランから自分たちを守れるのは中国ではなく、米国だけであることを再認識した」(ベイルート筋)。