2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2024年6月20日

何がなんでも原子力導入

 皇太子は紅海に近い砂漠地帯に65兆円規模の未来都市「ネオム」の建設も進めており、この都市の運営にも活用されるAI技術の開発に力を入れている。4月にリヤド近郊で開催された世界AI会議にはアマゾンやグーグルの経営者らも含め20万人以上が参加した。AI大国を目指す計画だという。

 だが、ネオム建設にしても、脱石油にしても計画通りには進んでいない。「ビジョン2030」では、30年までに石油への電力依存度を50%にまで低下させる計画。その中核に太陽光や風力など再生エネルギーによる発電への転換を据えているが、「無謀で不可能」(専門家)という見方が強い。

 計画が思惑通り進まない原因の1つはサウジ人の労働意欲の問題だ。国民の多くは石油を外国に売った代金の分配を受けて生活しており、額に汗して働くという認識が薄い。結局のところ、アジア人など外国人労働者に依存する実態になっており、これが計画遅れの大きな要因だろう。

 ムハンマド皇太子にとって脱石油のもう1つの柱は原子力発電の導入だ。特に潜在的な適性国であるイランの核武装を懸念しており、それに備えて何としても原子炉とウラン濃縮施設の建設を望んでいる。皇太子はかつて「イランが核武装すれば、われわれもする」と発言していた。

 バイデン政権はガザ戦争を終わらせるためにも、サウジにイスラエルとの国交樹立を求め、サウジはパレスチナ国家樹立の道筋の確立をその前提としている。皇太子はさらに国交の見返りとして、「米サウジ安全保障協定」の締結と、「原子力開発計画」への協力を要求、交渉は大詰めだ。

 最大のネックはウラン濃縮の管理をサウジ人に委ねるかどうかだ。米国はサウジの核武装を阻止するためあくまでも米国による管理を要求、反対するサウジ側と対立しているが、しびれを切らしたムハンマド皇太子が再び「中国カード」を切るかもしれない。

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