2024年11月22日(金)

教養としての中東情勢

2024年6月20日

 なぜ、米国に牽制球を投げる必要があるのか。「皇太子はバイデン政権にさからって見せることで対米関係をリセットし、米国のライバルである中国との関係強化を誇示することで米国に隷属しないとの意思を明確にした。米中を天びんにかけた独自外交だ。米中を手玉に取る皇太子の究極の“サウジ第一主義”ともいえるだろう」(中東専門家)。

世界に類を見ない改革スピード

 ムハンマド皇太子を“サウジ第一主義”に駆り立てているものは何なのか。それは皇太子が旗を振る国家改造計画「ビジョン2030」の推進と成功のためだ。その最終目標は「石油依存と超保守的なイスラム社会から脱却し、世界の一流国へのし上がることだ」(ベイルート筋)。

 社会改革のスピードは世界に類を見ないほど速い。サウジはイスラム世界では、メッカ、メジナという2大聖地の守護者として君臨。だが、スンニ派の中で戒律の最も厳しいワッハーブ派が国を支配し、女性の社会進出などが遅れてきた。皇太子はこの弊害の是正に乗り出し、女の運転許可(17年)、競技場でのスポーツ観戦容認(18年)といった開放政策を次々と打ち出した。

 かつては外で働くことはおろか、外出さえも難しかった女性の社会進出は最近、35%にまで上昇し、カフェなどで飲食をすることも可能になった。この一方で皇太子は社会改革に反対するイスラムの保守勢力を抑え込んだ。とりわけ過激な聖職者ら約500人を投獄したという。だが、逆に宗教警察には懐柔策を取り、給料もこれまで通り支給するなど「アメとムチ」をうまく使った。

 皇太子が力を入れているもう1つは世界のスポーツに影響力を及ぼそうという試みだ。サウジのイメージアップの有力な手段だと判断しているからだ。

 最初はゴルフだった。高額ツアー「LIVゴルフ」を立ち上げ、旋風を巻き起こした。欧州の有力なサッカー選手たちを巨額の契約金でサウジのチームにスカウトした。テニスや自動車レースにも触手を伸ばした。

 現在狙っているのはプロボクシングだ。米紙などによると、スポーツ界への進出の先兵となっている政府系ファンドPIFが20億ドルを用意して新たなボクシング団体創設を準備、12階級約200人のトップ選手との契約を見込んでいるという。

 こうした中、外国人を驚かせたのが今年初め、外交官用にアルコール飲料の店を初めてオープンすることが決まったことだ。観光用にビザ取得を大幅に緩和したことなどと合わせ、サウジの開放政策の本気度がうかがわれる話だが、一連の社会改革は女性や若者から圧倒的な支持を受け、皇太子の人気はうなぎのぼりだ。


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