2024年12月22日(日)

一人暮らし、フリーランス 認知症「2025問題」に向き合う

2024年6月21日

 

済生会宇都宮病院・新田清一先生

 連載第15回(『難聴は認知機能の低下を引き起こす?~改善できる危険因子・難聴①』)から、難聴と認知症の関係について見ている。

 前回(『音を聞いているのは、耳でなく脳だった!~改善できる危険因子・難聴③』)は、補聴器を使うためには適切な調整とトレーニングが必須であることについて書いた。なぜ必須なのかと言えば、私たちが音を聞いているのが「耳ではなく脳」であり、「難聴の脳」では「聴覚路」の音に対する反応が弱くなっているからだった。

 今回は、補聴器の画期的なトレーニング方法「宇都宮方式聴覚リハビリテーション」を実践している医師に、聞こえを良くするためのトレーニングのコツを伺った後、補聴器が必要になった時に信頼できる窓口になるであろう場所の情報を紹介する。

効果的なトレーニングとは?

済生会宇都宮病院・新田清一先生

「宇都宮方式聴覚リハビリテーション」とは、済生会宇都宮病院の新田清一先生が実践している補聴器のトレーニング方法で、先生のもとで補聴器を作った患者さんたちが満足いく補聴器を手にしているだけでなく、他機関で補聴器を購入しながらもその装用効果に不満を持ち、改善する目的で全国から外来受診にやってくる患者さんたちが後を絶たない話題のものである。

「補聴器をきちんと使えるようになるためのトレーニングで大切なことは、二つです。一つは、補聴器を最初から長時間、朝起きてから寝るまで常に装用し続けること。もう一つは、補聴器の調整を適切に行うことです。

 一つ目の装用時間ですが、『最初は短い時間装用し、慣れたら少しずつ増やしていきましょう』という指導では、難聴の脳からいろいろな音が当たり前に聞こえる脳に短時間で変化していきません。辛くても、必ず最初から長時間装用し、脳を変えていくのが大事です。

 また、補聴器の音量をどのレベルにするかも重要です。補聴器をつけて聞こえを良くできる音量でありながらも、音に慣れていない耳でも我慢できる大きさの“最適値”をきちんと決められるか否か。それが、トレーニングのもう一つの要です」(新田先生、以下同)
 
 調整をどのように行うかは本当に大切で、新田先生のところでは、最初、「補聴器をつけて目標とする音量(=聞こえの力を最大限に引き出す音量)」の7割にするという。

補聴器をつけた時とつけてない時の「聴力検査結果」例。初回の調整では、補聴器をつけた時の「聞こえ」の7割を音量の目安にする。(資料提供:“聞こえる”プロジェクト

「補聴器をつけた状態でも聴力を測定し、足りない音がないか、聞こえ過ぎる音がないかなどをしっかりと確認します。そして、補聴器をつけていない時の聞こえのレベルと補聴器をつけた時の聞こえのレベルの検査結果(上図参照)を参考に、その後の調整を進めていきます。最終的な目標は、補聴器をつけたときの聞こえのレベル(▲)が、補聴器をつけていないとき(△)の半分ぐらいの数値になることですが、初回はその7割程度にするのが調整の目安です」

 新田先生は、言語聴覚士ともチームを組んでおり、「言葉の聞き取り」をいかにアップさせていくかに注力して、調整とトレーニングを行っている。

言語聴覚士の鈴木大介さん。調整では言葉を捉えられるようになることを重視する

 ちなみに「7割聞こえる」音量でもたいていの難聴患者は不快に感じてしまうとか。しかし一方で、補聴器をつけていない状態よりは明らかに聞き取りは良くなっていき、次第に食器がガチャガチャいう「高音域の音」や車の騒音「低音域の音」にも慣れるようになっていくという。

デジタル補聴器の調整は、その補聴器に対応するソフトで行う

「3カ月程度あれば、たいていの患者さんの聞き取りに改善が見られます。ですので、私たちのところでは、3か月間をトレーニング期間と決めて、患者さんに頑張っていただくことにしています。そしてその間は補聴器を貸出しており、販売することはしません」

 お話を伺って、補聴器を使えるものにするかを左右しているのは、適切な調整と、最終的に「聞こえること」が担保されているかどうか(という信頼感があるか)なのだと強く思わされた。

不適合の補聴器が売られている

 最初にご紹介した通り、新田先生のところには、補聴器を買ったにもかかわらず「使えない」状態の患者さんたちも多く訪れているわけだが、その233例について先生のグループが2010年4月~16年1月までに行った調査では、1例を除く232例(99.6%)が、実際に「適合不十分」だったという(→注1)。

「他機関で購入された補聴器の検討~補聴器適合検査の指針(2010)に準じた適合判定~」(Audiology Japan 61, 216~221, 2018)より引用(→注1)

「内訳は,器種選択の誤りが129例(55%)、調整の不適が85例(37%)、故障18例(8%)でした。それらの原因に応じて当科補聴器の貸出や調整などの対処を行った結果,持参補聴器の使用継続を選択した28例を除いた204例(88%)が適合となりました」
 
 つまり、間違った補聴器を選んだり、しっかり調整できていない補聴器を使ってしまうことが、満足いく「聞こえ」の実現を妨げているということだ。

済生会宇都宮病院では、日本で流通している全メーカーの補聴器を置いている

「このうちの器種選択の誤りというのは、中等度以上の難聴患者に対して、軽度難聴用の補聴器など器種の適応聴力範囲が患者の聴力レベルと合致していない補聴器が販売されている例が多数でした。また調整の不適では、装用効果よりも装用下での不快感を避けることを優先した調整が行われていた可能性が示唆されます」


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