2024年12月26日(木)

令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史

2024年6月9日

働き方改革、女性活躍、コンプライアンス……。平成期、企業を取り巻く環境は激変した。社会が大きく変容する時代だからこそ、不変であるべき経営の〝神髄〟に迫る。「Wedge」2024年6月号に掲載されている「平成全史 令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史」記事の内容を一部、限定公開いたします。
(写真・さとうわたる 以下同)

 井村屋の「あずきバー」は、時代を超えて老若男女に親しまれ、根強い人気を誇る。そんな創業127年の老舗食品メーカーで代表取締役を務める中島伸子会長は、アルバイトから正社員に登用されるなど、異色の経歴の持ち主だ。中島会長と、東京大学史上初めて経営学の博士号を授与された平成元年生まれの経営学者、岩尾俊兵・慶應義塾大学准教授に、「経営の平成史」について語り合ってもらった。

今、なぜ、平成という時代を振り返る必要があるのか?(前編)
今、なぜ、平成という時代を振り返る必要があるのか?(後編)

編集部(以下、─)数あるアイスの中で、井村屋の「あずきバー」といえば、代表的なロングセラー商品です。他にも、お餅が入った「やわもちアイス」など、ユニークな商品が多くありますが、商品の開発や改良に際しては何を意識していますか。

中島 おかげさまで「あずきバー」は昨年、発売から50周年を迎え、多くの人に食べていただいている主力商品です。昨年度は1年間でシリーズ合計約3億2000万本を販売することができました。その本数分の「バー」をつなげると、地球1周分を上回ります。とてもありがたいことです。

 井村屋の基本的な経営コンセプトは「特色経営」と「不易流行」の二つです。

 「特色経営」は、常にオリジナリティーを追求する姿勢を大切にすることで、言い換えるなら「もうひとひねりしよう」ということです。人気のある市場を狙うのは悪いことではありませんが、大きな市場だからこそ、キラリと光る「特色」がないと埋没してしまいます。「他社にマネされるのはいいけれど、われわれは他社を絶対にマネしない」という信念があります。

 一方で、「不易流行」は、変えるべきことは勇気をもって変え、変えてはいけないことは一途に守り続けるということです。われわれは食品メーカーですから、安全・安心は経営の根幹です。また、和菓子をベースにした商品をつくるという経営方針は時代が変わっても不変です。一方で、現状維持に満足することなく、世の中の流行を敏感に捉えながら、どうしたら卓越した味に近付けるかを常に考えています。

 実は「あずきバー」も「不易流行」の考え方から生まれた商品です。創業家の経営者だった井村二郎は「和菓子だけではいずれ先細るから、新たな分野に挑戦しないといけない」との思いでアイス業界に飛び込みました。しかし、開発メンバーには当初、「アイスの新商品をつくれ」としか命じていなかったそうです。

 彼らが「アイス=バニラ」との固定観念にとらわれ、先行するメーカーに勝てないと悩んでいた時、「うちにはあずきがあるだろ」という井村の一言から「あずきバー」が誕生しました。伝統を生かしつつも新しい分野に挑戦した結果の賜物が「あずきバー」なのです。

中島伸子(Nobuko Nakajima)
井村屋グループ 代表取締役会長(CEO)
1952年新潟県生まれ。豊岡女子短期大学教育学部卒業。78年井村屋製菓(現・井村屋グループ)の福井営業所にアルバイトとして入社。経理学校に通いながら働くなど、勤務姿勢を評価され正社員に。北陸支店長、関東支店長、マーケティンググループ長などを歴任。副社長、社長を経て2023年より現職。

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