2024年7月16日(火)

令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史

2024年6月9日

岩尾 「伝統」と「革新」の両方を追求するという「言うは易し、行うは難し」なことに挑戦されているわけですね。最近は消費者の求める味も少しずつ変化していると思います。例えば、中華料理店や韓国料理店が増え、一昔前と比べると辛いものを食べる機会が増えて、同じものをつくっていても「昔より辛くない」と言われたりします。時代の変化やニーズを踏まえた上で伝統的な「変わらない味」を再現し続けることは簡単ではなさそうです。

岩尾俊兵(Shumpei Iwao)
慶應義塾大学商学部 准教授
1989年佐賀県生まれ。東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程修了。東京大学史上初めて博士(経営学)を授与される。著書に『13歳からの経営の教科書』(KADOKA WA)、『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)、『世界は経営でできている』(講談社現代新書)。

「どうしてもやりたい」から生まれた新商品

中島 おっしゃるとおりで、「あずきバー」にしても、近年の健康志向の高まりを受けて砂糖を減らしたり、甘みの代わりにあずきのコクを深く感じるように手間と時間をかけて製造したりと、小さな工夫でマイナーチェンジを積み重ねています。余談ですが、「あずきバー」には1本あたり約100粒のあずきが入っていて、余計な添加物を使っていないからこそ、あんなに固いのです。

 その中で思い切ったことにも挑戦しています。昨年、数量限定で「こしあんバー」を発売しました。構想は1年以上前からあったのですが、経営陣からは「粒がなければあずきバーではない」という反対の声もありました。それでも、若い開発担当者が何度も何度も試作を重ね、諦めずにプレゼンしてきたのです。

 「どうしてもやりたいのか」と聞くと「やりたいです!」と言うので、数量限定で発売しました。すると、これが爆発的人気になり、お客様から「どこに売っているのか」「売り切れて買えなかった」など、大きな反響がありました。こんなことは初めてで、若い人の感性はすごい、と感心しました。

岩尾 面白いお話ですね。私の妻は「やわもちアイス」が好きで、よく買って帰ります。

中島 やわもちアイスの開発には3年以上かかりました。狭いカップの中にやわらかい餅を均等に5つ入れることが非常に難しく、それだけで2年も費やしました。当社の経営陣には「3つでいいのではないか」という空気もありました。それでも、開発担当者たちは「5つでやります」と言って連日連夜、試行錯誤を繰り返していました。

 ある朝、出社すると開発担当者たちが朝早くから集まっていました。「どうしたの?」と聞くと、「昨日、やっと5つになりました。うれしくてみんなで見ていたら、こんな時間になってしまいました」と言うんです。こんな働き方は推奨できませんが、その時は感動して涙が出ました。この技術は10年以上たった今も、他社にはマネできない井村屋独自のものです。


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