禁止されているのは輸出拡大や国内企業を有利にすることを目的とした、国や公的機関による補助金だが、外資企業も受け取っている補助金もあり、無数にある中国の補助金のうちどの程度が違反に該当するのかは不透明だ。
EVは安くても高い利益率を保持
そんなはずはないと思われる方も多そうだが、中国企業との最前線でしのぎを削っている、中国進出外資系企業の態度は冷静だ。在中国米企業の団体である米国中国商会の24年版白書によると、「中国企業と比較して、あなたが所属する業界での外資企業の待遇は?」とのアンケート調査では、中国企業が優遇されているとの回答が31%、同等が60%、外資企業が優遇されているが10%という結果となった。
同様に在中日本企業の団体である日本中国商会が24年第1四半期に実施した「会員企業景況・事業環境認識アンケート」の「事業環境の満足度」という設問では非常に満足および満足が57%、非常に改善して欲しい及び改善して欲しいが43%という結果であった。少なくとも差別的待遇にすべての企業が怒り心頭という状況ではない。
また、話をもとに戻すと、「中国はどのようにして、安すぎる製品を作っているのだろうか」という問いの答えには、「技術的蓄積や効率改善」というごくごくまっとうな取り組みも含まれてくる。
たとえば安さで世界を驚かせている中国EV(電気自動車)だが、その競争力の源泉となっているのは製造コストの減少である。中国のEVが安いのは、中国企業が安く作れる技術革新を続けているからという側面は見逃せない。自動車業界には累積生産量が倍増するたびに一定の比率で製造コストが減少するという、いわゆる「ライトの法則」として知られる経験則がある。
この法則はEVにも共通しており、世界最大のEV製造大国である中国は量産を重ねることでコストを引き下げることに成功し、今年はついに「油電同価」(同グレードの内燃車とEVが同価格)「電比油低」(EVのほうが内燃車より安い)がうたわれるまでになった。特にトップメーカーである比亜迪(BYD)は今年、大々的な値下げ競争をしかけたことで話題となったが、それでも利益率は下がるどころか逆に上がっている。
中国メディア・南方都市報は「今年第1四半期、BYDの平均販売価格は前年同期比17.2%減の14万2000元に下がったが、1台あたりの利益は12.1%増の3万9800元に増加したと推定されている」と報じた。「補助金を原資とした値下げで他企業を潰そうとしている」と見られることも多いが、少なくとも決算資料からは「安く作れるようになったので値下げした」という別の構図が見える。
確かにBYDは多額の補助金を受領しているほか、中国各地に分布する工場の建設は地元政府の支援を受けている。産業政策の追い風を大いに受けているわけだが、それと同時に安く高品質なEVを作る技術も大きく向上させ、他社を大きく引き離している。ことほどさように、中国製品の安さは補助金が理由なのか、技術力が源泉なのかを判別することは難しい。