2024年7月1日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2024年6月24日

安さを生み出す“思考実験”

 EVよりももうちょっと身近なところで、中国の“安さ”を感じるのが越境EC(国境を越えて商品が移動するネットショッピング)だ。ガジェットや日用品などをカバーするティームーやアパレルに強いシーインは日本でも利用者を急拡大させている。

 粗悪品や模倣品が売られていることもあり、中国の「安かろう悪かろう」を世界に売りさばいているようなイメージを持つ人が多い。だが、実はそのビジネスモデルを解剖すると、なるほどと驚くような仕組みが隠されている。

 ここでは例としてティームーを取りあげよう。

 ティームーを運営する中国企業ピンドゥオドゥオの創業者コリン・ファンが執筆したブログ記事「資本主義をひっくり返す」が先日、ツイッターで話題となっていた。資本主義においては富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなるというメカニズムがあるが、それを逆転させるような資本主義的メカニズムを考案できないかと考察を進め、一つのアイデアを提案している。それが“逆転保険”だ。そのアイデアを要約すると次のようになるだろうか。

 半年後の冬になったら必ずダウンジャケットを買うから安くして。1000人の消費者がこのような約束をしたら何が起きるだろうか。もし消費者が先払いするのならば、メーカーはおそらく3割は値引きするだろう。いや、前払いじゃなくてもよい。購入するという契約だけでも(クレジットヒストリーに傷がない消費者という条件付きなら)8%は値引くのではないか。これはある意味で逆転保険と言える。通常の保険は貧乏人が金持ちに金を支払って将来の安定を買うのだが、逆転保険では金持ちが生産リソースの確実な配置を値引きという形で買うのだから。

 確実な需要という情報を提供することと割引きという金銭的利益を交換する、すなわち逆転保険という仕組みを成り立つのではないかという思考実験だ。これはたんなるアイデアにはとどまらず、ピンドゥオドゥオやティームーに大きな影響を与えている。

 ピンドゥオドゥオは既存のECとは異なったサイトデザインをしている。アマゾンや楽天といった、従来型のネットショッピングモールでは検索やランキングの閲覧など、消費者の主体的な行動からスタートする。一方、ピンドゥオドゥオは検索もできるが、基本的にはリコメンドから欲しいものを見つけることが前提とされている。

ピンドゥオドゥオはトップ画面から他のECサイトと異なる(筆者撮影、以下同) 写真を拡大

 アマゾンなど他のECにもリコメンドはあるが、ピンドゥオドゥオやティームーの徹底ぶりは一味違う。トップページを開くと、商品の一覧が無限に並んでいる。検索のための文字入力といった手間をかけなくても、だらだら眺めているだけで欲しいものが見つかる。

ティームーも徹底したレコメンドを提供する 写真を拡大

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