2024年7月1日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年6月25日

 ポーランドとバルト諸国はフィンランドとは戦略的立場を異にする。フィンランドは優秀な陸軍、十分に訓練された国民および多数の爆弾シェルターを誇るだけでなく、その広大で人口希薄な森林に覆われた地勢が侵攻する軍を悩ますことになる。従って、フィンランドは敵を自国領内に侵入させてもなお効果的な防御を仕掛けることが出来る。

 対照的に、バルト諸国は、侵攻軍が彼等の領域に突っ込むことを阻止するために、彼等の東部国境に連結された要塞、「Baltic Defense Line」を必要とすると決定した。最近合意された共同計画では、エストニアだけで約600の要塞化された掩蔽壕を6400万ドルで建設し、リトアニアには18の「counter-mobility parks」(対人および対車両防御装置の緊急展開拠点)を設置する。

 ポーランドの「Tusk Line」は同様な形で構築されるが、約700キロメートルの自然のガードレールを作ることにもっと重点が置かれる。自然の障害物を十二分に活用し、新たな障害物を作り、もってポーランド軍が安全で効果的な堡塁を設け、奇襲を計画し、補給センターを整備し、敵軍を防御し辛い状況に導くことが出来るようにする必要がある。また、ポーランドは対ドローン防御、衛星、空中偵察に大きく依存することとなろう。

 フィンランド、バルト諸国、ポーランドの東部防衛計画は相互に整合的である。何故なら、彼等は基本的目標を共有しているからである。これらの防衛計画はEUとの密接な協議の下で進められつつある。EUでは欧州の兵器産業を調整し再編するために新たに共同防衛担当の欧州委員を設ける努力が進行中である。

 しかし、ロシアに対して戦うウクライナを十分に支援しなければ、如何なる計画もEUの安全を確保出来ない。もし、ロシア軍がウクライナを支配すれば、それはポーランド、フィンランド、バルト諸国の計画すべてを掘り崩すであろう。

 バルト諸国及び「Tusk Line」が構築されるまでには何年も要するので、ウクライナの戦場が依然として最優先課題となろう。

*   *   *

EU主導の限界

 この論説は、ポーランドが「Tusk Line」と呼ばれる東部国境の要塞の建設に、バルト諸国が彼等の東部国境に連結された要塞「Baltic Defense Line」の構築に、それぞれ着手している様を描いている。ロシアのウクライナ侵略の衝撃によって、ロシアの脅威に覚醒したこれら諸国の深刻な危機感を教えてくれる。

 フィンランドは、その広大で人口希薄な森林に覆われた地勢が自然の要塞を成し、それが防衛に有利な条件を提供している。フィンランドはこの条件を利して1939~40年のロシアとの冬戦争を果敢に戦った。そのフィンランドも要塞化には長い歴史があり、地雷原に守られた堡塁のネットワークを有している。


新着記事

»もっと見る