ドイツ、フランス、ニュージーランドの元高官、アル・ゴア米国元副大統領も
ドイツのシュローダー元首相も多くのドイツ製品を中国にセールスすることに成功している。2009年10月にトンネル掘削機メーカーのトップを引き連れて四川省成都市を訪れたが、このメーカーは成都市の地下鉄建設への機械設備を納入している。
フランスのラファラン元首相は深圳市で中仏企業が開催した国際ボートショー(2008年)の調印式に出席しているし、ニュージーランドのシプリー元首相は中国建設銀行の役員に就任し、2011年に43万元(650万円超)の報酬を受けたと報道されている。米国のアル・ゴア元副大統領は江蘇省無錫市の太陽光パネル大手サンテックパワー(2013年3月に倒産)の施正栄CEOと親交があり、同市の環境保全活動に参加し、チャリティーコンサートへの募金を呼びかけた。
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【解説】
政府の指導者が大型の経済ミッションを引き連れて外国を訪問することは稀有なことではない。その意味で政府指導者は「最高のセールスマン」と揶揄されたりする。日本でも新幹線や原発の売り込みで政府高官が重要な役割を果たすこともある。
近年、中国は外交において経済をてこに使うようになっている。「自国のマーケットへの入場券」ともいうべき権利付与を外交カードとして使うのだ。その際には相手国の退職した高官を利用し、取引をまとめるのである。
最近、中国を訪問した欧米の元政府高官ではクリントン元大統領が挙げられよう。表向きは経済フォーラムに参加して学術議論を行うというものだが、企業のビジネスイベントにも登場し、高額な謝礼を受け取っているとも言われる。また薄煕来事件を通じて明らかになった中国政府高官の海外資産を巡る欧米との癒着も注目を浴びた。同氏はフランスや英国に不動産を持ち、英国人に管理させていたことが暴露されている。また、米国の投資銀行が中国政府高官の子弟をコネ入社させていたというニュースもあった。
国際政治経済学では国家間で経済的相互依存が深まれば国家間の紛争が起きにくくなる、という理論がまことしやかに主張される。では元政府高官たちがこうしたビジネスに参与し、経済交流のアクターという役割を担うことは紛争の軽減につながるのだろうか。彼らは国民大多数の利益に合致するよう行動しているのか。彼らが経済の相互依存に寄与していると捉えるのはお人よしすぎないか。
庶民のあずかり知らぬところで経済利益の取引がなされ、表面上で政治的なカモフラージュが施されているならそれほど腹立たしいことはない。ポールソン元財務長官に至っては現役時に米中戦略経済対話(SED)の米国側代表として交渉の最前線に立っていたのだ。それが今や中国ビジネスを云々しているのだからあれは一体なんだったのか、という疑問が湧かないのが不思議である。ただ、こうした癒着は中国内でも批判がある。毛沢東を掲げて保守的な主張をするいわゆる「毛左派」は、新自由主義派がイデオロギー面では三権分立や民主主義を標榜し、政治面では政権転覆を試み、経済面では欧米と結託して中国国内の権益を外国に売り払うような売国行為を働いていると強烈に反発を示す。特権階級への反発や懐疑という面で我々日本の庶民と中国の「毛左派」が共感しあえるかもしれないのは皮肉である。
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