「今年春頃、ある朝日友好関係者を通じて、日本の自民党が共和国との交渉を望んでいるという話が入ってきた。9月23日に行われる中国・杭州アジア大会の開会式で、日本政府の高官が体育相との会談を望んでいるという。
はっきり言うが、共和国において対日政策の優先順位はかなり低い。そのため、この話は1号案件(金正恩氏に報告される案件)にはならず、外務省が担当することになった。
日本側が会いたいというのであれば、会ってやってもいいが、日本人拉致問題を持ち出してきたら、解決済みと突っぱねるということで調整が進んでいたところ、関係者から『事情により高官が杭州に行けなくなった』と連絡があり、話は潰えた。われわれは関係者から話を聞いて、やはり日本政府はだらしないと大いに笑ったものだ」(同上)
これまで日本政府は、成功したか否かにかかわらず、過去に何度も水面下で日朝交渉を行なってきたので、筆者は幹部が話したように、開会式で〝立ち話〟程度の会談はあり得るとにらみ、知り合いの政治部記者に話を振ってみた。
すると、ある記者から渦中の人となっている政府高官の名前が取りざたされていると聞き、幹部らが大いに笑った理由に納得した。
しかし、幹部は「日本からの会談要請を聞いた特殊機関は別なことを考えていた」と、北朝鮮の策略について話を続けた。北朝鮮で特殊機関とは、朝鮮労働党文化交流局や偵察総局、国家保衛省など工作機関を表す。
FBIも警告する北朝鮮のマネーロンダリング
「特殊機関はハッキングなどサイバー攻撃で大量の暗号資産を盗み保有しているが、共和国がコロナ禍で国境封鎖したことが仇となり、現金化できずに困っている。
そこで、特殊機関は外務省に対して、日朝交渉を行うのであれば、朝鮮総聯幹部や一部の在日朝鮮人の再入国禁止措置を解くよう日本政府に要求しろと迫った。つまりは、朝日間を自由に往来できるようになった在日朝鮮人を利用して、盗んだ暗号資産を現金化したいということだ。
この特殊機関の横槍に外務省は困っただろうが、外務省としても在日朝鮮人の出国禁止など制裁解除は常々表明していることなので、もし、日本政府高官と体育相の会談が実現されていれば、きっと伝えられたはずだ。
もちろん、日本政府やマスコミは、その背景に暗号資産の現金化という特殊機関の思惑があるなど知る由もないだろうが」(同上)
この話を裏付けるかのように、米連邦捜査局(FBI)は8月22日、「ラザルス」あるいは「APT38」の名称で知られる北朝鮮のサイバー戦組織「Trader Traitor」関係者が、58億円(4000万ドル)以上に相当するビットコインを現金化しようとしているとして、関連するアドレスを公開して注意を促した。
周知のとおり暗号資産はそれ自体に決済機能があり、ネットワーク上で現金化することができる。しかし、FBIが注意を促したように、北朝鮮が決済や現金化しようとすれば必ず足がつく。特殊機関が在日朝鮮人の自由往来を日本に求め、彼らを利用した現金化を企てたのは、このような米国などの動きを予測していたからに他ならないだろう。
今後、北朝鮮が在日朝鮮人の入国を再開すれば、親族訪問などで訪朝した人々が、「この荷物を日本の知り合いに渡して欲しい」と暗号資産が保存されたUSBを託され、意図せずマネーロンダリングに手を貸してしまうことが起こり得ないとはいえない。
金正恩氏とプーチン氏の会談で再び国際政治の表舞台に立った北朝鮮の動きに注意が必要だ。