2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2024年6月25日

 「共和国(北朝鮮のこと)は党大会以降、ロシアと宇宙・兵器開発分野について協議してきたが、新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延したため、協議は停滞していた。

 そして、コロナ禍が収束し、国内での防疫体制が整ったので、今年7月の祖国解放戦争勝利70周年閲兵式に露中の高官を招いた。ここで労働党は、本来は中国を最大限に接遇しなければならないところ、ロシアのショイグ国防相を最上級の賓客としてもてなした。そこに、金正恩元帥の訪露に繋がった秘密が隠されている」(上述の朝鮮労働党幹部)

 ロシア国防相から提示されたビッグディール

 今年7月27日の閲兵式は、朝鮮戦争休戦70周年に際して行われた。幹部の発言は、参戦した中国を優遇することが当然であるが、北朝鮮があえてロシアを優遇したことを示している。実際、閲兵式での来賓紹介や金正恩氏の報告でも、露中の順で言及された。

 「ショイグ国防相は、5月に打ち上げ失敗した軍事偵察衛星が南側(韓国のこと)に回収されるという恥辱に打ちひしがれた共和国に、朝露首脳会談と軍事支援の拡大という〝ビッグディール〟をもたらした。

 トランプ(前米国大統領)を真似たショイグ国防相の提案は、共和国にとって渡りに舟であるばかりでなく、ウクライナ戦争で苦しむロシアにとっても救いの手になるものだった。

 ロシアはロケットやミサイル、航空機などの技術を持っているが、ウクライナ戦争で使う地上兵器と弾薬の欠乏に苦しんでいる。一方の共和国は、5カ年計画を達成させるために宇宙・兵器開発技術を喉から手が出るほど欲しているが、核抑止力が完成し、人民軍の配備と作戦を見直した結果、榴弾砲や放射砲(ロケット砲のこと)など地上兵器と弾薬に余剰が生まれている。

 それならば、お互いに持っているものを交換すればいいと、両国のバーター取引を拡大するための首脳会談への流れが生まれ、8月の軍事偵察衛星打ち上げが失敗したことで急加速した」(同上)

 金正恩氏の訪露のきっかけが、ロシア側からのビッグディール提案だったとは驚きだ。

 幹部の発言を補足するかのように、9月9日付ロイター通信は、ロシアが22年に消費した弾薬は1000万発に達したとみられ、ロシアの弾薬生産量は今後数年で年200万発まで増産できる可能性があるものの、不足の解消にはつながらないと指摘している。

 では、北朝鮮からどの程度の弾薬がロシアに供給されるのだろうか。

 北朝鮮の弾薬備蓄量は明らかにされていないが、少なくとも100万トン(t)が備蓄されているとみられる。これを砲弾1発10キログラム(kg)で計算すると1億発に相当するので、仮に北朝鮮が備蓄量の3割を渡せば、ロシアが使用した3年分の弾薬に相当する。幹部が話したように北朝鮮に余剰があるとすれば、さらに多くの弾薬がロシアに流れる可能性があるだろう。

 実際のところ、北朝鮮は100ミリメートル(㎜)と115㎜戦車砲、122㎜と152㎜自走砲、迫撃砲や小銃の砲弾をロシアと共有でき、昨年12月と今年4月には、東京新聞が北朝鮮からロシアへの弾薬供給をスクープしている。

 北朝鮮高官が嘲笑う日本政界

 これまで金正恩氏訪露の背景と露朝の軍事協力について幹部の話を紹介してきたが、北朝鮮の策略はこれに止まらない。朝鮮労働党幹部は、日本を巻き込んだ暗号資産現金化についても言及する。


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