米軍による迅速で大規模な反応は、米国の対アジア関与に疑問符がつけられ始めた時期にあって、アジアへのリバランスに新しい意味を与えるであろう。これは、オバマ大統領の東アジアサミット欠席を補って余りあるものである。
さらに劇的なのは、日本が、ヘリ空母を含む3隻の艦船と1000人規模の自衛隊員という、戦後最大規模の支援活動をすると宣言したことである。これに対して、理に適った反対を唱えることのできる国は無い。日本の対応は、安倍総理の歴史観によって地域で損なわれた、日本へのダメージを帳消しにし、憲法解釈の変更と、対外政策における日本の軍事的役割の正常化を進める原動力となる可能性がある。
中国は、選択を迫られている。フィリピン援助で消極姿勢を続けるならば、道徳的非難だけでなく、地域への影響力と南シナ海問題における正当性の競争で、曲がり角を迎える可能性がある。
米国のパワーと目的が疑問視され、中国が影響力を増していると見られている時期に、台風Haiyanの災害は、米国がアジアのあらゆる種類の安全保障上の事態に対する不可欠な「救助隊」であることを、改めて思い出させた。ソフトパワーであれ、軍事力の展開であれ、北京は、いまだ道遠しである、と論じています。
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米国による大災害への迅速な対応が大きな戦略的意義を持つことは、3.11におけるトモダチ作戦が、当時、鳩山、菅政権下でギクシャクしていた日米関係を改善するのに効果があったことからも、明らかでしょう。そして、今回は、論説が指摘する通り、米軍の活動は、まさに、オバマのアジア歴訪中止を補って余りあるものです。オバマが東アジアサミットに出席していたとしても、中国に配慮して、あるいは定見の無さゆえ、あまり内容のある発言をすることは期待できませんでした。結果論になってしまいますが、オバマのアジア歴訪は、中止になって、かえって良かったというべきかもしれません。
中国の対フィリピン援助の少なさが、中国のフィリピンに対する懲罰的な意味を持つとするならば、驚くべき狭量さという他ありません。むしろ、この際、軍を派遣して、中国海軍のプレゼンスを強調するチャンスだったのに、それをむざむざ見逃しています。ただ、インドネシアの地震と津波、東日本大震災の例から見て、中国では、人道援助が他の考慮に優先するという観念が欧米や日本ほどは強くないのではないかと思います。むしろ、国際政治面では、人道というと、内政干渉の手段として身構える傾向があります。
一方、現時点では、強硬派の発言力が増していると見られる中国内で、フィリピンに甘くする政策をとるには危険を伴う状況であることも推測されます。160万ドルの追加支援を決定する直前に、共産党の機関紙『環球時報』が、中国が方針を速やかに転換しなければ大きな損失を招くであろう、という社説を掲載していますが、それは、強硬派の意見が強い中で何とか追加支援を実現するための、観測気球であったとも解釈できます。
そして、論説が、日本の対応を特筆して紹介し、称賛していることには勇気づけられます。我が国の行動が正しく評価され、広く紹介されるのは、誠に有り難いことです。
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