その後、日本と中国を訪問したバイデン米副大統領は日本側の要請を拒否して、中国に対する防空識別圏の撤回を求めなかったことも問題とされているが、よく考えてみれば、アメリカにしてみれば、特異な防空識別圏の設定によって「領空拡大」を計る中国側の企みはすでに失敗に終わった以上、そしてそれによって中国の防空識別圏はすでに普通の防空識別圏になった以上、あえてその撤回を求めなくても良い、ということであろう。
中国国内で報道されないバイデンの発言
もちろんアメリカ政府はそれでも、中国の防空識別圏を認めない姿勢を貫いている。バイデン副大統領が中国に訪問し習近平国家主席と会談した翌日の、12月4日のホワイトハウスの発表によると、バイデン副大統領は習近平国家主席との会談において中国が東シナ海上空に設定した「防空識別圏を認めない」と伝え、深い懸念を表明したという。
そしてバイデン米副大統領自身も会談後の6日、習近平国家主席ら中国指導部と北京訪問時に会談した際に、中国の防空圏内での米国の作戦行動は「影響を一切受けない」として、緊張を高める行動を起こさないように中国側に明確に伝えたとしている。
12月12日夜、バイデン米副大統領は日本の安倍晋三首相とも電話会談したが、その中ではバイデン氏は、4日に訪れた中国で習近平国家主席と会談した際、中国の東シナ海上空の防空識別圏設定について「認められない」と直接伝えたことを報告した。
バイデン副大統領本人からのこの一連の発言からしても、「バイデン氏が訪中中に中国側のペースに乗せられて防空識別圏問題に関する態度が軟化した」という一部の報道や分析は単なる憶測であるとよく分かろう。中国との攻防に事実上の決着をつけた後に行われたバイデン副大統領の訪中は、この問題だけに固執するのではなく、むしろ中国との建設的な関係作りに前向きの姿勢を示すような流れとなったのは、外交的にはむしろ普通のことであろう。
実は大変興味深いことに、バイデン副大統領が中国の習近平国家主席との会談において防空識別圏について「認めない」という発言は、中国政府の公式発表からも中国メディアの報道からも一切姿を消している。あたかもバイデン氏が中国滞在中にこの問題について発言していなかったかのような報道の仕方だ。それほど必死になってバイデン氏の発言を国民の目から覆い隠そうとする習近平政権の行動は逆に、自分たちがこの一件で大きな失敗を喫したことを、彼らはよく知っていることの証拠ではないかと思う。
電子書籍シリーズ「WEDGEセレクション」
中国はこうして国際秩序を破壊する(Amazon kindleストア)
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。