「知識や経験に乏しい自分が対応をしてもご本人の心は休まりませんでしたが、ベテランの専門職の方が話し相手になると、次第に落ち着きを取り戻していったのです。ひとときの話し相手になることは私にもロボットにもできますが、それだけでは何かが足りない。経験を積んできた専門職の方だからこそできることがある。介護には、目には見えない力、安心感があることを実感しました。
もちろん、テクノロジーは重要です。しかし、それはあくまでも人間の生活や仕事を『支えるもの』の一部。人間が生活や仕事をしやすい環境をつくる補助的なものであると言えるでしょう。こうした考えのもと、これからも介護現場を支えるテクノロジーの創出に努めていきたいと思っています」
建設現場に起きた革新的変化
それでも変わらないことは
まるで蛇のように体をくねらせながら、水が通る配管の中を進んでいく。弘栄ドリームワークス(山形県山形市)が手掛ける「配管くん」は、パイプ探査型のロボットだ。
「お客様に直接『ありがとう』と言われる現場の仕事は重要です。ITの世界で長年働いてきたからこそ、余計にそう思いますね」
こう話すのは、大手IT企業で25年間働いた経歴を持つ、同社社長の菅原康弘さんだ。ドローンが流行し始めた12年頃、同社会長の船橋吾一さんが「配管の中をドローンが飛んだら面白いのではないか」、「建設業界の人員不足を解決したい、この業界を盛り上げたい」と考えたことが、「配管くん」開発のきっかけだったという。
「配管くん」が活躍するのは、商業ビルや病院、公的機関や鉄道施設など多岐にわたる。高度経済成長期に建てられた建築物も多く、図面が残っていないものもざらにある。それでも改修工事は進めなければならない。
「建物を人の体に例えると、配管は、外から見えないところにある内臓や血管にあたります」
図面もなく配管の位置も分からなければ、壁や床を全て剥がしたり、穴を掘って、配管の位置を確認してからでないと、次の工程には進めない。どうしても、「人手が必要な仕事」なのだ。
「配管くん」の完成は、それを劇的に変えた。位置情報の取得により、配管が設備全体のどこに張り巡らされているかを可視化しつつ、異常のある箇所を先端のカメラで特定する。最小限の工数で対応ができ、しかも、より安全に工事を行えるようになったのだ。一方で、菅原さんは言う。
「建物は千差万別です。革命こそ起きましたが、なかなか想定通りにはいきませんよ。現場の環境や撮れた映像をもとに総合的な判断をくだすにはやはり、人間の〝肌感覚〟が必要です」
現場仕事はこれからもなくならない。では、もし東京から、沖縄にある建設現場の機械を当たり前のように操作できるようになったら世の中はどう変わるだろうか。ジザイエ(東京都千代田区)は「すべての人が時空を超えて働ける世界」を目指している。
※こちらの記事の全文は「Wedge」2024年7月号で見ることができます。