「待ってたんや、ありがとうな」
玄関のドアを開けると、暗闇から声が聞こえてきた。社員で車に相乗りし、どうにかして利用者の家にたどり着いた時、言われた言葉だ。
この日は台風の直撃で町が停電し、電話も通じず、信号も止まっていた。車の運転も危険が伴う。それでも、夜の時間にオムツのパッドを交換しなければならない利用者がいる。
「携帯の明かりを頼りに側まで駆け付けて、パッドを交換したこともありましたね」と明るく話してくれたのは、ケア・ワーク(兵庫県尼崎市)尼崎西ステーションのサービス提供責任者の一人、渡辺梓さん。同社は尼崎エリアに事業所を構え、訪問介護サービスを提供している。
現場の仕事を希望していなかった渡辺さんは事務担当として入社したが、電話越しの利用者の声や、ヘルパーが持ち帰ってくる話を聞く中で、「私も実際に会ってみたい、力になりたいと思った」という。多忙な彼女たちの仕事に同行し、その実態を取材した。
困りごと全てに寄り添う仕事
親身な対応で地域を守る
利用者宅に到着すると、渡辺さんは玄関横のメーターボックスから家の鍵を取り出し、「おはようございます」と元気よくドアを開けた。
通院先の送迎車が利用者を迎えに来るまでの30分。家の中で手伝えることを見つけては丁寧にこなしていく。
「首の調子、どう?」
「あかん」
渡辺さんは利用者と会話しながら、ベッド横にあったバケツ型の簡易式便器を外し、トイレへ流しに行った。
渡辺さんが便器を洗浄している間、居間に目をやると複数の段ボールがあった。よく見てみると、中身は全て2リットルの水だった。
「私たちが買ってきて運び込んだんですよ」
高齢者にとって、ネット上での注文は簡単ではない。スーパーの宅配サービスも割高なため、買い控える人も少なくない。仮に家から出かけられたとしても、重い物を持ち帰ることは難しい。「買い物」も彼女たちの仕事の一つなのだ。
利用者を送り出すと同時に、ごみ出しも手伝う。し尿を吸ったオムツが詰まったその袋は、大変重たかった。
「次に行く家は、ちょっとした理由があって……」
向かいながら事情を聴くと、もともとその家のご主人は毎日、奥様は火・土曜日のみ利用していたが、ご主人の入院によりごみ捨ての手伝いができなくなった。そこで奥様が自分でごみを捨てに行ったところ、転倒し、けがをしてしまったことを後日知った。「なんとかしてあげられないか」と、事業所のメンバーで話し合ったという。
結果、毎週訪問予定のある別の家にも近いため、本来は奥様の支援の予定がない木曜日に、ご主人が入院中の一時的な措置として、追加料金はもらわずにごみ捨てだけを手伝いに訪れているという。これまで築いた信頼関係もあり、利用者を突き放すようなことはできない。
「ごみ捨て自体は2分で済むし、様子をうかがう機会にもなるから」(渡辺さん)