利用者の中には、寝たきりの方もいた。同事業所サービス提供責任者の一人である山田直美さんに同行し、利用者宅に着くと、山田さんは台所で空のペットボトルに白湯をため始めた。
「これで〝おしも〟を洗います」
寝たきりであっても、施設へ行き入浴できる日がある。しかし、それ以外の日は彼女たちが陰部を洗浄するのだ。
山田さんは終始優しく声をかけ、介助を進めていた。乾燥予防の薬を体に塗り、目やにを掃除し、歯を磨いていく。
「あーんして」「ピカピカなったよ」
言葉での返事こそなかったが、安心した表情の利用者が印象的だった。
訪問介護ならではの悩み
追い打ちをかけたマイナス改定
彼女たちの尊い活躍の陰で、訪問介護には業界特有の悩ましさがある。社員には月給が支給されるが、非正規の場合、介護中の時間のみが時給換算される。訪問の予定がびっしりと埋まる日もあれば、利用者の急遽の入院などで空き時間が目立つ日もあり、収入額にはどうしても波が生じ得るのだ。
渡辺さんによれば、このことを理由に介護施設へ移った人も一定数いたという。もちろん、事務的な仕事が性に合わない、自分の時間を持てる方が良い、などの理由から自ら非正規として働くことを選ぶ人もいるが、以前と比べ、事業所の所属人数はほぼ半減したとのことだった。
「本当にこの世の中からヘルパーがいなくなってもいいんですかと、私は世に問いたい」
そう強調するのは同社社長の松本教資さんだ。人手不足が深刻化する中、訪問介護・定期巡回・夜間対応訪問介護の報酬は、今年の改定で「マイナス」となった。この追い打ちにより、同社も含め小規模の事業所の多くが深刻な経営状況に苦しんでいる。
「利用者の笑顔。『ありがとう』の一言。そういうことを生きがいにして働いてくれている人がたくさんいます。介護の仕事の本質は、人と人とが接することにこそあります」(同)
松本さんは「国の予算には限りがあり、厚生労働省の苦悩は理解できます」としつつも、「現在の介護報酬の仕組みは、働く人たちの思いにこたえられているのでしょうか?」と率直に疑問を投げかける。このままでいいはずがないことは、誰の目にも明らかだ。
今年の2月に100歳を迎えたという利用者は、小誌記者にこう言った。
「人間ってやっぱり、喋りたいときあるやん? 本当に、ありがたいんやわ」
人だからこそできる仕事。心があるからこそ伝わるサービス。頼り、頼られる関係性が確かにそこにあった。