2024年7月17日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年7月17日

 フィリピンは米国の条約上の同盟国である。そのことは、武力攻撃の場合にはフィリピンの救援に赴くことを米国がコミットしていることを意味する。米国は同盟国に義務を有しており、南シナ海を通じて航行の自由を確保することに軍事的・商業的利益を有している。

 米国が中国の強硬姿勢を抑止するための資源を動員出来ないのであれば、中国は土地を収奪し米国に反撃出来るならやってみろとあえて挑むであろう。その危険が増大しつつある。

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フィリピンは厳正な立場へ転換

 6月17日、南シナ海のセカンド・トーマス礁にあるSierra Madreに駐屯する海兵隊に補給物資を届けるべく向かったフィリピン海軍の4隻のゴムボートに、中国海警のスピードボート数隻が体当たりして行動を封じ、ナイフ、斧、棒で襲いかかり、補給活動を妨害する事件が発生した。兵士一人が親指を失う重症を負った。フィリピンは「海賊行為」だと非難している。

 この事件に関し、6月21日付の環球時報は、海警の乗組員がフィリピンのボートに乗船し臨検を行ったと報じている。フィリピン側は銃器等が盗まれたと言っている。報道によれば、中国は、5月15日に、海警が「中国の管轄下にある海域」に不法に侵入した外国人の身柄を最大で60日間拘束出来ることなどを明記した規則(6月15日に発効)を公表したが、この規則が発動されたのかどうかは不明である。

 今回の事件に至る前から、Sierra Madreに補給に向かうフィリピン船舶が海警の船舶の放水銃で妨害される事件が繰り返し発生するなど、セカンド・トーマス礁周辺では緊張が高まっていた。5月31日、マルコス大統領はシンガポールのシャングリラ会議で演説したが、その際、「放水銃によってフィリピンの兵士が死亡した場合、それをレッドラインと見做すか否か、そして米比相互防衛条約を始動させることになるか否か」との質問に答えて、彼は次の通りフィリピンの確固たる立場を表明した。

 「もし、意図的な行動によってフィリピン人――軍人のみならず一般市民であっても――が殺害されれば、それはわれわれが戦争行為と定義するものに非常に近いと考えるので、われわれはそれ相応に対応する。われわれの条約上のパートナーも同じ基準を有すると考えている」「一旦、その地点に至るや、われわれはルビコンを渡ったことになるであろう。それはレッドラインか? ほとんど確実にそれはレッドラインとなるであろう」


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