2024年7月25日(木)

BBC News

2024年7月25日

11月の米大統領選からの撤退を表明したジョー・バイデン大統領は24日夜、ホワイトハウスの大統領執務室から国民に向けてテレビ演説を行い、撤退を決めた理由を説明した。

演説は午後8時(日本時間25日午前9時)に始まった。

バイデン大統領は冒頭、「皆さんの大統領として仕えることは私の生涯最大の名誉だった」と述べた。

「アメリカ国民のために働くことは私にとって力の源泉であり喜びだ。しかしこの国の連合を完璧なものにするという神聖な職務において大事なのは私ではない。大事なのは皆さんだ。皆さんの家族、皆さんの未来。大事なのは『私たち国民』だ」

バイデン氏が国民に直接声を届けたのは、先週に新型コロナウイルスの検査で陽性が確認され、選挙イベントをキャンセルして以降初めて。

自宅で隔離していたバイデン氏は23日にホワイトハウスへ戻った。

バイデン氏が大統領執務室から国民向けの演説を行うのは、今回を含めてわずか4回。直近では14日に、共和党の大統領候補ドナルド・トランプ前大統領の暗殺未遂事件を受けて、国民に冷静さ求める演説を行った。

そのトランプ候補はこの日、ノースカロライナ州での選挙集会で、「ご存知のように、我々は3日前、米国史上最悪の大統領を打ち負かした」と語った。

トランプ候補に同行していた記者によると、集会を終えたトランプ候補は帰りの飛行機の中でバイデン氏の演説を見ていたという。

「いま下す決断が国家の運命を決定づける」

バイデン氏は現在のアメリカについて、「転換点を迎えている」、「私たちがいま下す決断が、国家の運命を決定づけることになる」と述べた。

「前に進むのか、それとも後退するのか。希望か憎悪か。団結か分断か。正直さを今も重視するのか。私たちは決めなくてはならない。誠実なまともさを、敬意を。自由と正義と民主主義を」と、国民に語りかけた。

若者の声が「いま」必要、最善策は「新しい世代に引き継ぐ」こと

バイデン氏はこの数週間の間に、民主党を団結させなければならないと気付いたと説明。

「大統領としての自分のこれまでの業績は、世界における自分の指導力は、アメリカの未来に対する自分のビジョンは、いずれも私が2期目を目指すにふさわしい材料だった」としつつ、こう続けた。

「けれども絶対に、絶対になにごとも、私たちの民主主義を守ることを妨げてはならない。個人の野心もそこに含まれる」

「なので私は、前に進むための最善の道は、たいまつを新しい世代に引き継ぐことだと決心した。この国を団結させる最善の方法だ。長年の公職経験が役にたつ時と場所があるのと同様、新しくフレッシュな声が役にたつ時と場所がある」

「そしてその時と場所は、まさに今だ」と、バイデン氏は付け加えた。

残りの大統領任期に言及

バイデン氏は残りの大統領任期については、「大統領としての職務に専念する」と国民に誓った。

「これから6カ月間、私は自分の大統領としての仕事に集中する。それはつまり今後も勤労家族の生活費を引き下げ、経済を成長させ続けるということだ。私たちの個人的な自由や公民権を引き続き守り続ける。投票する権利から(出産するかどうかを)選ぶ権利まで」

「私は今後も、憎悪や過激主義を批判し続ける。アメリカには政治的暴力も、どのような暴力も一切あってはならないのだと、はっきりさせ続ける」

このほか、パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘を終わらせることや、世界中の刑務所に収容されている米国民を帰還させるために努力していくとも約束した。

ハリス氏は「タフで有能」

バイデン氏は、民主党の大統領候補として支持を表明したカマラ・ハリス副大統領についても言及した。

「私は素晴らしい副大統領、カマラ・ハリスに感謝する」

「彼女は経験豊かでタフで有能だ。私にとって素晴らしいパートナーで、この国のリーダーだ」

ハリス氏は、大統領選挙の民主党大統領候補に指名されるのに必要な党代議員の過半数の支持を確保したと22日に報じられて以降、精力的に選挙戦を展開している。同氏が共和党のトランプ候補を打ち負かすために、バイデン氏がどの程度、ハリス氏の選挙戦に力を注ぐかは未知数だ。

こうした中、ハリス氏はインディアナ州インディアナポリスで選挙集会を開き、バイデン氏について「並外れた決意と国民のための深い情熱」を持った大統領だと敬意を表した。

そして、「私たちは社会的正義や健康上の正義、経済的正義というこの国の未来のためのビジョンを共有している」と、集まった女性たちに語りかけた。

「この瞬間、私たちはこの国のための、二つの異なるビジョンという選択肢に直面している。一つは未来に焦点をあてたもの、もう一つは過去に焦点をあてたもの」だと、ハリス氏は付け加えた。

そして、「私は、この国の未来のために戦っている」と述べた。

ホワイトハウス関係者によると、ハリス氏はこの日、ハリケーン「ベリル」の被害を受けたテキサス州ヒューストンから、バイデン氏のテレビ演説を見ていたという。

演説の最後に

バイデン氏は演説で、アメリカは「希望と可能性の国だ。夢を見る人や行動する人の国だ。平凡なアメリカ人が非凡なことを達成する国だ」と述べ、次のように締めくくった。

「私は自分の心と魂をこの国にささげてきた。ほかの大勢の人と同じように。そして実に恵まれたことに、その何百万倍もの愛情と支持をアメリカ国民から与えられてきた。私が皆さんにどれだけ感謝しているか少しでもわかってもらえると良いのですが」

「アメリカでは素晴らしいことに、ここでは王や独裁者は支配しない。国を治めるのは国民だ。歴史は皆さんの手の中にある。力は皆さんの手の中にある。アメリカという概念は皆さんの手の中にある。あとは信じ続けるだけ、信念を守り続けるだけだ。そして自分たちが何者なのか忘れないこと。私たちはアメリカ合衆国なのです。そして私たちが一緒に一丸となって取り組めば、できないことなど何一つない。なので、一緒に行動しよう。私たちの民主主義を守ろう」

「皆さんに神の祝福がありますように。そして神が私たちの軍を守りますように。ありがとうございました」

ホワイトハウス、バイデン氏は「間違いなく」任期を全うする

ホワイトハウスのカリーン・ジャン=ピエール報道官は記者会見で、バイデン氏が大統領にふさわしくないという主張は「ばかげている」と述べ、バイデン氏は大統領任期が終わる来年1月より前に辞任すべきだという声に反論した。

一部の共和党議員は、バイデン氏が大統領選に立候補できる状態にないのなら、国を治めることもできないとして、辞任を求めている

ジャン=ピエール報道官は、バイデン氏は「間違いなく」任期を全うするとし、バイデン氏の認知能力の低下を「隠ぺい」しているとの主張も否定した。

バイデン氏が大統領選から撤退したのは「健康上の問題ではない」とも付け加えたが、それ以上の詳細は明らかにしなかった。

同報道官によると、バイデン氏は選挙戦からの撤退を「後悔しておらず」、自身の決断を「誇りに思っている」という。この決断は「大統領がどれほど尊敬されるに値するか」を示していると、報道官は述べた。

バイデン氏が今後数カ月の間に取り組むかもしれない政策目標については詳細を避け、「今後、さらに多くのことを共有できるだろう。ご期待ください」とした。

共和党の反応

バイデン氏の演説を受け、共和党議員からは、民主主義を守ろうというバイデン氏の呼びかけは偽りだとの批判の声が上がった。

「秘密の裏取引で大口献金者に民主党候補を選ばせるやり方は、『民主主義を守ること』ではなく、寡頭(かとう)政治だ」と、メアリー・ミラー下院議員はソーシャルメディアに投稿した。

別の共和党議員は演説について、バイデン氏が1月まで大統領を続けることへの懸念を和らげるものではなかったと指摘した。

「バイデンは今夜、アメリカ国民に答えよりも多くの疑問を残した」と、スコット・デジャレ下院議員(テネシー州)はソーシャルメディアに投稿した。

「彼の突然の選挙戦離脱は、民主党が彼では勝てないと説得したか、あるいは彼の健康状態や認知能力がもはや大統領になるには適さないと説得したかのどちらかであり、相互排他的なものだとは思わない」

リンジー・グレアム上院議員(サイスカロライナ州選出)らは、バイデン氏の後継候補と目されるハリス氏に狙いを定めた。

グレアム氏は、バイデン氏の決断を尊重し、バイデン氏とその家族の幸せを祈るとしつつ、アメリカは間違った方向に進んでいると指摘。ハリス氏は事態を悪化させるだけだと主張した。

「アメリカ国民は苦しんでいる。この国は間違った方向へ向かっている」と、グレアム氏はソーシャルメディアに投稿した。

「さらに言えば、バイデン大統領をカマラ・ハリス副大統領に交代させることは、国境開放や海外における力の衰退、国内のインフレなど、我々が直面している問題を悪化させるだけだ」

(英語記事 Biden says he quit presidential race to unite party and country

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cmj2p76kl75o


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