2024年7月25日(木)

BBC News

2024年7月25日

アンドリュー・ハーディング・パリ特派員

がっかりとした表情の観光客たちが、セーヌ川に張り巡らされた迷路のような金属フェンスの向こうを見つめていた。視線の先には、ノートルダム大聖堂をはじめとするパリの至宝が並んでいるが、たどり着くことはできない。

「私たちはセキュリティーコードを持っていないんです」と、メキシコから来た女性は、QRコードを掲げた他の人々が、警察の検問所を通過するのを眺めながら語った。

さらに下流のエッフェル塔近くでは、大きなスーツケースを引きずる疲れたカップルが、混雑した歩道でゆっくりとUターンしていた。

フランスの憲兵が、「通行止めです。迂回(うかい)して歩いてください」と、南の方角を身振りで示した。

パリがそのユニークなオリンピック開会式を準備するなか、フランスの警察と軍隊も、同じく前例のない警備作戦の最後の仕上げを行っている。セーヌ川を舞台にした開会式では、現地時間26日の夕方から、選手たち色とりどりの遊覧船に乗り、パリ中心部をパレードする予定だ。

エマニュエル・マクロン仏大統領は、「準備はできている」と陽気に宣言した。議会解散という衝撃的な決定から始まった数週間の政治的混乱では、同大統領の威勢のよさは損なわれないようだ。

警備作戦という言葉では、この体制の規模を表現しきれない。

開会式の警備は、平時としては同国史上最大規模の治安部隊の派遣を伴うもので、最大7万5000人の警察官と兵士、警備員が常時、パリ市内をパトロールする。

道路や地下鉄駅は閉鎖され、4万4000基の柵が設けられる。そしてセーヌ川や中州に行きたい住民など向けに、複雑なQRコードシステムが導入された。

そのため、普段なら自由に行き来できる外国人観光客であふれかえっているはずのこの街で、初めての事態に伴う問題や不満が生じるのは避けられない。

「ちょっと心配だ。こんなに静かなのは初めてだ。客の9割がいなくなってしまった」。シテ島でウエーターとして働くのオマル・ベナブダラさん(25)は、舗道の空きテーブルを見ながらそう言った。

しかし、フランス当局は、この混乱は短時間のものであり、パリの歴史と美をたたえる壮大なショーで世界中を楽しませるためには仕方のないものだと主張している。セーヌ川沿いのバリケードの多くは、26日の開会式後に撤去される。

「これを悪夢とは言えない。私たちは集中し、決意を固めている」とリオネル・カタル大将はかすかな笑みを浮かべながら語った。カタル大将は、パリに投入された約5500人のフランス兵を調整する責任者だ。

カタル大将は、今回の警備活動が「例外的」な規模であると認めた一方で、この作戦は、イスラム主義グループや個人による一連の攻撃に対し、10年前から展開している「センティネル作戦」から発展したものだと説明した。

「地雷除去チームもある。探査犬チームもある。対ドローン(無人機)システムやレーダーもあり、ダイバーがセーヌ川をパトロールしている」

また、作戦本部をパリ郊外からエッフェル塔の裏手にある広大な「エコール・ミリテール(軍学校)」に移すという決定は、2012年のロンドン五輪を経験したイギリス警察からのアドバイスに基づくものだという。

「ロンドン五輪での作戦本部は、街の中心部から少し離れていたはずだ。イギリスの警察は、責任者である政治家や警察の近くにいるようにとアドバイスしてくれた」と、カタル大将は語った。

イギリスからは警察官250人と警察犬50匹が、向こう数週間、フランスに滞在し、一部はフランス歩兵と共にパリ中心部をパトロールする。パリ五輪ではイギリスのほか、スペインやドイツ、韓国、カタールなどから合わせて1750人の警察官が、警備作戦に参加する。

英国家警察調整センターの責任者であるマット・ローラー警視長は、「50万人近いイギリス国民が、大会のためにやって来ることを想定している。このような形で(国外の)大きなイベントに警官を派遣できるのは初めてだ」と語った。

英仏はまた、特に開会式では、対ドローン技術について直接軍事協力を行っている。

フランス政府の関係者によると、大会に対する具体的な脅威はないものの、国内外からの「軍事化されたテロ」を懸念しているという。また、発券システムやその他のインフラを狙ったサイバー攻撃のリスクにも注目している。

仏政府はここ数カ月、クレムリン(ロシア大統領府)の支援を受けているとみられるオンライン活動により、五輪の警備やフランス側の準備について誇張された不安が生じているとし、怒りをあらわにしてきた。

ジェラール・ダルマナン内相は先に、「情報の妨害や歪曲(わいきょく)はロシアだけでなく、我々が注視している他の国々も行っている。我々は無知ではない。オリンピックによる休戦が(中略)すべての国によって守られることを望んでいる」

フランス警察は23日、五輪期間中の「不安定化」を企てた疑いでロシア人の男性を逮捕したと明らかにした。

また、パリ郊外では同日未明、フランス警察の精鋭部隊がバス車内で人質事件のリハーサルを行った。銃声と大爆発の中、2015年のバタクラン襲撃事件に対応した部隊が、バス内に閉じ込められた民間人を救出した。

部隊の指揮官であるシモン・リオンデ氏は、「我々は焦りを感じている。我々はこの大会の準備に2年以上を費やしてきた。我々が行動を起こす必要がないことを祈りましょう」と語った。

(英語記事 As the Olympics nears, Paris puts 75,000 troops on the streets

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c72v952gmgzo


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