イスラエル内閣、首相と国防相にヒズボラ報復の決定権委ねる　Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン)

イスラエルの安全保障内閣は29日、イスラエルが占領するゴラン高原の村が27日に攻撃されたことを受けて、ベンヤミン・ネタニヤフ首相と国防相に報復計画の決定権を与えた。イスラエルとアメリカは、この攻撃はレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが行ったものだと非難している。

27日の攻撃では、ドゥルーズ派の多く住むゴラン高原マジダル・シャムス村のサッカー場にロケット砲が着弾。12人の子供や若者が殺害され、数十人が負傷した。ヒズボラは攻撃への関与を否定している。

イスラエルとヒズボラは昨年10月から数カ月にわたり国境を越えた攻撃を続けているが、今回の攻撃による死者数はこの期間で最多。これにより、これまで比較的抑えられてきた敵対行為が全面戦争に発展する恐れが高まった。

欧米各国はイスラエルに対し、自制的な対応を求めている。

ヒズボラ対応の方法と時期を決定

ネタニヤフ首相は、攻撃の報告を受けてアメリカ訪問を切り上げた。28日に帰国し、安全保障内閣を招集する前に国防当局者と会談を行った。

数時間に及ぶ会議の後、首相官邸は簡単な声明を発表し、「閣僚は首相と国防相に対し、ヒズボラ・テロ組織に対する対応の方法と時期を決定する権限を与えた」とだけ述べた。

ネタニヤフ首相はまた、イスラエルのドゥルーズ・コミュニティーの精神的指導者であるムアファク・タリフ師に追悼の電話をかけ、ヒズボラは「これまで払ったことがないほど、重い代償を払うことになる」と述べた。

ヒズボラは攻撃への関与を強く否定しており、イスラエルの迎撃ミサイルの失敗だと主張しているという。

イスラエル軍参謀総長のヘルツィ・ハレヴィ中将は28日の声明で、イスラエル国防軍（IDF）は「ロケット弾がどこから発射されたかを正確に知っている」と述べた。

また、攻撃に使われたのは、重さ53キロの弾頭を備えたイラン製無誘導地対地ロケット弾「ファラク」だと特定。「これはヒズボラのロケットだ。そして、このようなロケットを居住地域に撃ち込む者は誰でも、民間人を殺したい、子供たちを殺したいと思っている」と語った。

ヒズボラは、昨年10月7日にパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃した翌日に、イスラエル軍の陣地にロケット弾を発射。それ以来、イスラエルとヒズボラの間で、以前は散発的だった戦闘が激化している。ヒズボラは、パレスチナ人を支援するために行動していると言っている。

ネタニヤフ首相は29日午後、マジャル・シャムス村の攻撃現場に向かった。

首相は「この子どもたちは私たちの子どもだ」と述べ、「イスラエル国家はこのような事態を見過ごすことはできないし、そうすることはない。厳しい対応を行う」とした。

AFP通信は、地元住民の多くが首相の訪問に抗議したと報じた。住民には、今回の攻撃を防げなかった当局に対する怒りがあるという。

ドゥルーズ派は、アラビア語を話す民族・宗教グループで、多くはレバノンやシリア、イスラエル北部、ゴラン高原に住んでいる。ゴラン高原には、数世紀前から居住しているという。

イスラエル軍が1967年にシリアからゴラン高原を奪って以来、この場所に住むドゥルーズ派はイスラエルに帰属しているが、多くの人がシリアへの忠誠を保っている。現在は約2万1000人のドゥルーズ派がゴラン高原に住んでおり、うち20％がイスラエルの市民権を受け入れているという。

国際社会の大半は、イスラエルによるゴラン高原併合を認めていない。

米ホワイトハウスのジョン・カービー国家安全保障報道官は、27日、イスラエルにはヒズボラに対応する権利があると述べたが、誰も「より広範な戦争を望んでいない」と強調した。

ホワイトハウスは、マジダル・シャムスのサッカー場での「恐ろしい攻撃以来、イスラエルおよびレバノンの関係者と継続的に協議している」と述べた。

また、「ブルーライン（国連が設定したレバノンとイスラエルの非公式な境界線）について、全ての攻撃を停止させるための外交的解決策に取り組んでいる」と説明した。

イスラエルの報復攻撃への警戒が高まるなか、仏航空エールフランスがレバノンの首都ベイルート発着便を運休すると発表した。これまでに独ルフトハンザドイツ航空、スイス国際航空、格安航空ユーロウイングスも同様に運航を停止している。

レバノンの国営メディアは29日朝、イスラエル国境から約6.5キロ離れたレバノンのシャクラ郊外でイスラエル軍のドローン（無人）による攻撃があり、2人が死亡したと伝えた。ヒズボラは、死亡したのはヒズボラの戦闘員だと発表した。

イスラエルはこの報道についてコメントしていない。