この本を日本では、ニューヨークのジェントリフィケーション(地区の高級化。既存住民の立ち退きなどを伴うことが多いのでしばしば批判される)や再開発に反対する内容だと一方的に受け取られる方が多いんですが、単純にそうとも言い切れない。ニューヨークの色々な地区の「オーセンティシティ」が、外部の富裕な人たちに消費されていくことを批判的に捉えることが本書の主題ですが、70年代の荒れ果てたハーレムやイーストビレッジの状況からは、外部の人やアイディアや資金が入って回転し始めることが必須だったのは事実で、それは認めざるを得ないもどかしいズーキンの逡巡も垣間見ることができます。「結局、著者はどうすればよかったっていうの?」と言いたくもなりますが、ズーキンの魅力はむしろ、やや性急な結論を急いだ終章ではなく、現実の街角の歴史を丁寧に見てしまうがゆえに、ジェントリフィケーションや再開発を「批判しきれない」各論にあると思うんですよ。
正直言って、キーワードになっている「オーセンティシティ」などの意味は最後までよくわからないマジックワードになってしまっていますが、結局「都市を守る」とはどういうことなのか。それは「空間」を守ることなのか、それとも「にぎわい」を守ることなのか、「在住者のコミュニティ」を守ることなのか、「来街者の客層」を守ることなのか。多方面に目配せの効いたこのもどかしい本でこのことを考え抜くことは、とても意義があるように思います。
ズーキンが「再開発」や「ジェントリフィケーション」について逡巡しているのとは対照的に、2冊目にあげる『まちづくりデッドライン』(木下斉、広瀬郁著/日経BP社)は、まちづくりに関し、とにもかくにも「経済的に街が回ること」を「選択」している本です。「まちを守る」ためにこそ、今までとはまったく異なった発想で、何を選び、何を捨て、何を新たに作り変えなければいけないのか。いわゆるまちづくりコンサルタントとしての著者の圧倒的な実務経験から、少子高齢化時代のまちを取り巻く環境変化を冷徹に説き起こし、その中で「まちを守る」超実践的な方法論を、日本全国の注目事例を的確に紹介しながら説明した本書は、説得力がすごいです。この「選び方」には反発も多く出るとは思いますが、「決断主義すぎる」本書と、「繊細すぎる」前書という都市に向けての両極の目線を併せて読むことで、そのリアリズムを感じてもらえればと思います。
3冊目、4冊目は都市とはうって変わって食べ物に関する本をオススメします。このコーナーでの私のインタビューも食の放射能問題についてでしたし、うなぎやまぐろの資源問題、食品偽装、そして今月には和食が世界無形文化遺産に登録されたということで、今年は食に関する話題が多く、日本の食文化がいろんな面から考えさせられた1年だったのではないかと思います。そこで、日本食を2つの方向から相対化する本を2冊紹介します。