IOCは昨年6月、IBAについて、審判の不正疑惑や不透明な財政管理などガバナンス問題を理由に五輪競技を統括する国際競技連盟の地位を剥奪した。IOCはIBAが昨年の世界選手権で失格とした2選手についても、「恣意的な決定の犠牲者」としてパリ五輪の出場資格を与えた。パスポートにも女性と記されていることも根拠に示している。
波紋が広がったのは、ケリフ選手と女子66キロ級2回戦で対戦したアンジェラ・カリニ選手(イタリア)が開始早々、強烈なパンチをもらうと自らリングサイドに戻って棄権したことだった。カリニ選手は海外メディアの取材に対し、「鼻に強い痛みを感じた。あの瞬間には、自分の命も守らなければならなかった」と理由を語った。
海外メディアによれば、イタリアのジョルジャ・メローニ首相が「男性の遺伝的特徴を持つ選手は、女子競技に参加すべきではないと思う」とコメント。ケリフ選手に続く準々決勝で敗れたハモリ・アンナルツァ選手(ハンガリー)も「この出場者(ケリフ選手)が女性部門で競えるのはフェアだとは、私は思わない」と対戦前にSNSに投稿していた。
激化するIBAとIOCの対立
IBAは準々決勝後の5日には記者会見を開き、失格の根拠は、性染色体検査によるものだと発表した。IBAのクレムレフ会長(ロシア)は、2選手のテストステロン値が男性並みに高いとして「男性」と断言し、IOCに対して「競技を破壊している」と糾弾した。
一方で、IBAは主張の根拠となるデータを「公開できない」とし、IOCが主張する「検査が信用できない」との批判に科学的な根拠に基づいた反論はできていない。
海外メディアによると、IOCのマーク・アダムズ報道官は「このアスリートたちは何年も前から何度も競技に参加していて、今になっていきなり現れたわけではない。東京五輪にも出場していた」と指摘した。実際、2選手がメダルを獲得できなかったこともあり、東京五輪では今回のような騒動は起こらなかった。一方で、IOCは、女性ボクサーでテストステロン値が高めの選手が多いことを根拠に、五輪前にこの検査を行っていなかった。
一連のやり取りから見えるのは、IOCとIBAの激しい対立構造だ。IBAが5日の会見で「IOCのバッハ会長は、あらゆる汚職の源にいる」などと語ったことにも、IOCは「IBAの記者会見の内容が、この組織とその信頼性について知るべき全てを物語っている」と非難する。さらに、28年ロサンゼルス五輪でボクシング競技を採用するために新しい国際統括団体が必要との認識を示す。