イギリス各地の町や都市で10日、人種差別に抗議する人々が、数千人規模の集会を開いた。これは、同国で先月末から続く、反移民などを主張する人たちによる暴動などに対抗するもの。暴徒への刑事手続きが進むとともに、警察は暴力をオンラインで扇動したいわゆる「インフルエンサー」への捜査も進めているという。
10日にはロンドンやイングランド中部バーミンガム、北アイルランドのベルファスト、ウェールズ・カーディフ、スコットランド・グラスゴーなどの複数都市の路上で、大勢が抗議した。
イギリスでは、7月末のサウスポートでの殺傷事件で3人の女の子が殺害された後、犯人は亡命希望者だという誤った情報が広がった。
これを受け、極右活動家らがモスクや亡命希望者が宿泊するホテルなどを襲撃した。また、店舗への放火や略奪もみられた。
こうした暴動にからみ、これまでに779人が逮捕され、349人が起訴されたと、イギリスの全国警察本部長評議会（NPCC）は発表している。
キア・スターマー首相は、暴動への政府の対応に引き続き集中するため、家族との夏休み休暇を延期した。
イギリス各地で何万人もの人が「難民は歓迎」「人種差別反対」などと唱えた8月7日の抗議行動を機に、暴力騒ぎのほとんどは沈静化したもよう。
スターマー首相は、警察の警備体制を強化したことと、刑事手続きを迅速に進めたことが、事態沈静化の効果をもたらしたと思うと話した。
ただし、各地のコミュニティーが「安全で、しかも安全だと実感できる」状態を維持するため、「厳重警戒」を続ける必要があると首相は述べた。
警察は今週末も各地で抗議行動が予定されていたため、警戒態勢を強化していた。
ウェールズのカーディフや、イングランドのバーミンガム、ノリッジ、ペンザンス、サウサンプトン、シュルーズベリー、カーライル、ヘイスティングス、ケンブリッジ、デヴォンでは10日、数百人が集まり、人種差別に抗議した。
北アイルランドのベルファストでは、数千人規模のデモ行進が行われた。「アルスター地方は人種差別にノーと言う」と書かれたサインを掲げる参加者もいた。
抗議デモの主催者「ユナイテッド・アゲインスト・レイシズム」（団結して人種差別に立ち向かう）は、このイベントは「ここ数日間の人種差別的な暴力行為に対する平和的な対応」を意図したものだと説明した。
「ここは私たちの道だ。私たちを分断しようとする人種差別勢力に譲るつもりはない」と、同団体のフィオナ・ドーラン代表は述べた。
ロンドンでは10日、官庁街ホワイトホールで約5000人が難民支援を主張して行進した。参加した人たちは、新党「リフォームUK」の本部へと歩いた。同党のナイジェル・ファラージ代表は、移民受け入れを「凍結」すべきだと主張している。
イングランド北東部ニューカッスルでは、人種差別に反対する数百人が集まった。近くでは少数の移民反対派が集まった。現地警察によると、武器所有や違法薬物所持などの疑いで14人を逮捕したものの、騒乱や暴行などを理由とした逮捕はなかったという。
スコットランド各地でも、グラスゴー、エディンバラ、ダンディー、ダンフリーズで人種差別に反対する抗議行動が行われた。
扇動した「インフルエンサー」の捜査続く
NPCCによると、7月末から各地で続いた騒乱に関連し、オンラインで事態を扇動した、影響力のあるいわゆる「インフルエンサー」の捜査に、専門の警官たちがあたっている。「大規模で憎悪を広め、暴力をあおった」責任が、そうした「インフルエンサー」にあるという。
イギリス各地で複数の専門チームが「何百もの手がかり」を調べているという。
これまで2週間足らずの間に、騒乱と暴力行為にかかわった数百人がすでに逮捕・起訴されており、判決と量刑言い渡しも素早く進んでいる。最長3年の禁錮刑を言い渡されたケースもある。
そのうちサウスポートに近いイングランド北西部リヴァプールで3日から4日にかけて、商店を襲い1万5000ポンド相当の電子タバコを盗み、救急隊員に暴行し、警察車両を破損したと認めた16歳少年は、9月に量刑が決まる見通し。
イングランド北部グレーター・マンチェスターでは9日、13歳から46歳の容疑者8人が騒乱罪で起訴された。
イングランド北東部ハルでは10日に、騒ぎに関連して6人が出廷。中には13歳少年3人と17歳少女1人が含まれていた。
7月31日にイングランド南部オルダーショットで起きた、難民申請者の宿泊するホテル前での抗議に関連しては、7人が起訴された。
遺族がコメントと写真発表
サウスポートでは10日、7月末の事件で殺害されたビービー・キングさん（6）の両親が、家族の写真を公表するとともに、ビービーさんが「喜びと輝きと愛情」たっぷりの子供だったとしのんだ。
また、事件を目撃したビービーさんの姉、9歳のジーニーさんが、当日以来「本当に見事なほどの力強さと勇気」を示しているとたたえた。
サウスポートの事件では、ルワンダ出身の両親のもとウェールズ・カーディフで生まれた、アクセル・ムガンワ・ルダクバナ被告（18）が、少女3人の殺害のほか、子供8人と大人2人の殺人未遂の罪で起訴されている。
