2024年8月19日(月)

BBC News

2024年8月19日

トム・ベイトマン米国務省担当編集委員

英外務省でテロ対策に携わっていた職員が、イスラエルへの武器売却に抗議し辞職した。イギリス政府が「戦争犯罪に共謀しているかもしれない」と述べている。

マーク・スミス氏は16日に同僚宛ての書簡で、公的な内部告発の仕組みを含めた外務省の「あらゆるレベル」について懸念を表明した。

アイルランド・ダブリンのイギリス大使館に駐在しているスミス氏はまた、基本的な謝辞しか受け取っていないと付け加えた。

外務・英連邦・開発省(FCDO)は、個々の案件についてのコメントは差し控えるが、政府は国際法の順守を約束していると述べた。

武器売却の「正当性はない」

BBCが確認したスミス氏の辞表メールは、数百人の政府高官、大使館職員、外務省閣僚の特別顧問を含む幅広い配信リストに送られた。

スミス氏は、以前は政府のために中東への武器輸出許可審査に携わっており、この部署の同僚らは「毎日」、パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエルが行っている戦争犯罪や国際人道法違反の「明確で疑いようのない例」を目撃していたと述べた。

「イスラエル政府と軍の幹部は、公然とジェノサイド(大量虐殺)の意図を表明し、イスラエル兵は意図的に市民の財産を燃やし、破壊し、略奪する動画を撮影している」

「街路や大学全体が取り壊され、人道援助は妨害され、市民は安全な逃げ場所を失っている。赤新月社の救急車は攻撃され、学校や病院は定期的に狙われている。これらは戦争犯罪である」

そのうえでスミス氏は、「イギリスがイスラエルに武器を売り続ける正当性はない」と述べた。

FCDOは、イスラエルが国際人道法を順守しているかどうかを評価するため、デイヴィッド・ラミー外相は「就任初日」に検討を開始したと述べた。

イギリスや欧州各国、アメリカでは、これまでに何百人もの政府関係者が、ガザでの紛争をめぐる政府の対イスラエル政策に、前例のない規模の異論を表明しているが、いわゆる「主義に基づく辞職」ははるかに少ない。スミス氏の辞職は、イギリス政府にとっては極めて珍しいケースだ。

スミス氏の辞職に関する詳細は、ジャーナリストのヒンド・ハッサン氏が16日、ソーシャルメディアに辞表メールのコピーを投稿したことで初めて明らかになった。

そのメールによると、スミス氏の役職は「テロ対策二等書記官」であり、比較的下級の役職であると理解されている。しかしスミス氏は自身を、「外交官としての長いキャリア」がある「武器売却政策の専門家」と説明している。

スミス氏はメールで、「閣僚らは、イギリスには世界で最も『堅固で透明性の高い』武器輸出許可制度があると主張しているが、これは真実とは正反対だ」と指摘。

また、「完全に身元の明らかな職員として、この部署で起きた違法行為について深刻な懸念を提起したのに、このような形で無視されることは深い問題だ。この問題を提起することは、公務員としての私の義務だ」と述べた。

スミス氏に近い情報筋によると、このメールは政府内部の宛先に限定されたもので、公に辞職を表明したわけではないという。

この件が公になって以来、スミス氏は政府に対し、公務員の「懸念に耳を傾ける」よう求める声明を発表。また、自分は以前、中東・北アフリカ局でイギリスの武器売却の合法性を管理する中央検討会の筆頭執筆者だったと付け加えた。

声明の中でスミス氏は、「民間人の犠牲や国際法の順守に関するあらゆる関連情報を収集したり、対象国のコミットメントと能力を評価したりするのが私の仕事だった」と述べた。

「どんな国に武器を輸出するにしても、イギリスは受領国が民間人の犠牲を回避し、民間人生活への被害を最小限に抑えるために強固な手順を備えていることを納得しなければならない。イスラエルがそれを行っていると主張することは不可能だ」

「私は外相に辞意を伝えるとともに、ガザの状況に対する英国のアプローチを早急に見直すよう要請した。この問題に関する公務員の懸念に耳を傾け、必要な変更を行ってくれることを切に願っている」

イギリスの武器輸出

ロビー団体「武器貿易反対キャンペーン」(CAAT)によると、イギリスはイスラエルに対し、データが閲覧可能な2008年以降、5億7400万ポンド(約1080億円)相当以上の武器を輸出してきた。

最近では供給規模を低減しており、2022年には4200万ポンド(80億円)と「比較的小規模」となったとしている。

イスラエルは、ガザでの国際人道法違反を繰り返し否定してきた。

イスラエル政府は、政策や武器供給をめぐる欧米当局者の反対意見に対して、イスラム組織ハマスが「人道に対する罪だけでなく、戦争犯罪も犯す大量虐殺のテロ組織」であるとして、これを倒すために行動していると主張している。

こうした中で5月、国際刑事裁判所(ICC)の主任検察官は、ガザ地区での戦闘をめぐる戦争犯罪容疑で、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相らとイスラム組織ハマスの複数指導者らの逮捕状を請求した。しかし、逮捕状はまだ発行されていない。

英外務省の報道官は、「政府は国際法を守ることを約束する。国際人道法上の重大な違反を犯したり、助長したりするために使用される可能性がある品目は輸出しないことを明確にしている」と述べた。

また、「イスラエルが国際人道法を順守しているかを評価する継続的な検討手続きがあり、これは外務大臣が就任初日に開始した」、「この検討手続きが完了次第、最新情報を提供する」とした。

(英語記事 Foreign Office official resigns over Israel arms sales

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cp8nm1e60pvo


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