2024年8月21日(水)

BBC News

2024年8月21日

11月のアメリカ大統領選に向けた民主党全国党大会(DNC)は2日目の20日、党代議員による形式的な投票を行い、カマラ・ハリス副大統領を大統領候補に指名すると確認した。代議員たちは今月2日にすでにバーチャル投票で、ハリス氏の指名を決めていた。

この日の最後に登壇したバラク・オバマ元大統領は、自分の選挙戦で有名になったスローガン「Yes, we can(そう、自分たちにはできる)」をもじって「Yes, she can(そう、彼女にはできる)」と強調。ただし、今回の選挙は接戦だと警告し、全員がこれから11月5日の投票日までの77日間、必死に努力して「より安全で、より公平で、より平等で、より自由な国を全員で築く」ため、ハリス氏とミネソタ州のティム・ウォルズ州知事を、それぞれ大統領と副大統領に当選させようと呼びかけた。

会場の外では前日に続き、「ガザのためにDNCを中止させろ」と主張する抗議が続いた。パレスチナの旗を掲げるデモ隊が、機動隊と衝突する場面もあった。

正式指名

「ロール・コール」と呼ばれる伝統的な行事で、民主党の代議員たちは、自分たちが代表する州・米領がハリス副大統領とミネソタ州のティム・ウォルズ州知事を、それぞれ大統領と副大統領の候補に指名すると、次々に発表した。

華やかな音楽と大歓声がその都度、場内に鳴り響き、会場になっているシカゴのユナイテッド・センターはにぎやかなお祭り状態になった。

このロール・コールで最後に「ハリス氏を大統領に!」と表明したのは、ハリス氏の地元カリフォルニア州の代議員たちだった。同州選出の民主党重鎮ナンシー・ペロシ元下院議長と並んで、党有力者のギャヴィン・ニューサム同州知事は、ハリス氏が同州で地区検事から州司法長官としてさまざまな犯罪と戦い続け、さらに上院議員、副大統領とキャリアを積む中で「常に正しいことをしてきた」と強調。カリフォルニア州の民主党代議員482人が全員、ハリス氏とウォルズ氏を支持すると表明した。

ハリス氏とウォルズ氏はこの日、シカゴから約130キロ北のウィスコンシン州ミルウォーキーで集会を開いた。ハリス氏は指名が正式に決まると、共和党が7月に党大会を開いた同じ会場からビデオ中継でシカゴの会場に向かって、「皆さんの候補者になって、私たちは本当に光栄です」とあいさつした。

「シカゴの皆さん、2日後にお会いしますね」とハリス氏は笑顔で手を振った。ウォルズ氏の指名受諾演説は21日、ハリス氏の演説は22日にシカゴの会場でそれぞれ予定されている。

シカゴでの党大会に先駆けて代議員投票をオンラインで行うという決定は、ジョー・バイデン大統領がまだ出馬している時点で決められた。これはオハイオ州法が、大統領選の候補が投票日の90日前までに確定していることを求めているからだった。今年は投票日が11月5日で、その90日前は8月7日。

オハイオ州の共和党幹部はこの州法の厳守を求めるとあらかじめ忠告していた。従来はこうした場合、例外規定が可決されてきたが、民主党は問題を確実に回避するため、党大会に先駆けて代議員の投票を実施することにした。

シカゴの会場で指名が終わると民主党幹部のチャック・シューマー上院院内総務が、踊りながら登壇。

「素晴らしいロール・コールでしたね」と会場にあいさつし、自分たちはハリス氏が大統領となって率いる未来のために集まっているのだと強調した。

さらに、「この国で選挙によって最も高位の公職に就いているユダヤ系として」と前置きし、自分の子供や孫たちがあらゆる差別を受けない国を残す必要があるとして、共和党のドナルド・トランプ候補は「あらゆる差別をまきちらす」と非難。

「彼が二度とホワイトハウスに近づかないよう、全員でそれを確実にしていこう」と呼びかけた。

その後も、バーニー・サンダース上院議員(ヴァーモント州)、J・B・ブリツカー・イリノイ州知事などが次々と、大企業の横暴や犯罪と戦い、国民のための低額医療費や中絶選択権を守るハリス氏とウォルズ氏を当選させようと呼びかけた。

ハリス氏が検察官として、凶悪犯から麻薬カルテル、公害流出企業まで、犯罪者と戦ってきた「恐れ知らず」の「ファイター」だと紹介する動画も流れた。

トランプ候補の元広報担当も登壇

共和党員のジョン・ジャイルズ・アリゾナ州メサ市長も登壇し、今の共和党はトランプ信者のカルト集団になってしまったと非難した。

また、この日の冒頭には、トランプ前大統領の広報担当だったステファニー・グリシャム氏が登壇し、自分はかつてフロリダ州のマール・ア・ラーゴでトランプ家としばしば休暇を共にし、テレビカメラのない場所で前大統領の言動を目にしたと述べた。

「トランプは自分の支持者を馬鹿にしている。地下室の住人と呼んでいる」とグリシャム氏は言い、「彼は私によくこう言った。『何を言うかはどうでもいいんだ、ステファニー。同じことをしょちゅう言えば、みんな信じる』」というやりとりがあったと話した。

「彼女は大統領にふさわしい」と夫エムホフ弁護士

ハリス氏の夫ダグ・エムホフ弁護士も登壇した。「最初のファースト・ジェントルマンになる」、「セカンド・ジェントルマン(副大統領の夫君)」だと息子コール氏に紹介されたエムホフ氏は、ハリス氏の家族を表現するのに使われる「ブレンデッド・ファミリー(血縁に加え、結婚や再婚や養親・養子などさまざまな関係でひとつになった家族の意味)」と自分の家族を呼んで紹介した。

エムホフ氏はニューヨーク生まれの自分の経歴や、離婚後に友人からハリス氏を紹介されて交際するようになったなれそめを面白おかしく語り、会場を大いにわかせた。

紹介されて電話で初めて話した時のハリス氏が「よく笑った」のだと言い、「みんなもあの笑い、知ってるよね。あの笑いが僕は大好きなんだ」と述べた。

「彼女は正義の追求に喜びを感じる」、「彼女の共感力は彼女の力だ」とエムホフ氏は妻をたたえ、「22日は結婚10年の記念日。その日に妻が皆さんの大統領指名を受けるのを聞くことになる」と喜びをあらわにしたうえで、「信じるもののために戦う」ハリス氏が、「この国のこの歴史の瞬間にとって、大統領としてふさわしい」のだと強調した。

「何かして」とミシェル・オバマ氏

シカゴ出身の元ファースト・レディ、ミシェル・オバマ氏が登場すると、会場の人たちはしばらくスタンディング・オベーションで歓迎した。

盛り上がる聴衆を前にミシェル氏が、「アメリカ、希望がカムバックしていますよ」と言うと、大歓声が上がった。

自分を常に導き支えてくれた母メアリー・ロビンソン氏が今年5月末に亡くなったことに触れ、ミシェル氏は、自分の母やハリス氏の母のように、先人たちが努力して獲得して自分たちに注ぎ込んだ価値観や信念を、決してむだにしてはならないと強調。

ハリス氏は自分や夫バラク氏と同様、中流家庭で育ち、学校や職場で努力して自ら成果を獲得し、他人への奉仕を重視してきたとミシェル氏は述べたうえで、「世襲の財産というアファーマティブアクション(優遇措置)の恩恵を受けられる人などめったにいない」、「他人をだましたりルールを変えたりして、てっぺんまでエスカレーターを上れる人などめったいにいない」のだと、資産家の息子に生まれた共和党のドナルド・トランプ候補を皮肉った。トランプ候補は2015年に報道陣の前でトランプ・タワーのエスカレーターを下り、大統領を目指すと発表した。

トランプ候補が長く自分たち夫妻について虚偽発言を重ねたことを念頭に、ミシェル氏はさらにトランプ候補について、「あの限定的で狭い世界観のため、勤勉で高学歴で成功を収めた2人がたまたま黒人なのが、自分を脅かすと彼は感じる」のだと批判。トランプ候補はかつてバラク・オバマ氏について、「アメリカで生まれていないので大統領になる資格がない」と根拠なく主張し続けた。

今年の選挙戦でトランプ候補は、バイデン政権の国境管理の失敗によってアメリカに不法移民があふれれば「black jobs(黒人の仕事)」がアフリカ系アメリカ人から奪われると発言。この発言はアフリカ系を中心に大勢から批判されている。

これを念頭にミシェル氏が、「彼がいま目指している仕事がもしかすると、そういう『black job』のひとつかもしれないと、だれが教えてあげる?」と言うと、また会場は大いにわいた。

ミシェル氏はそうしてトランプ候補批判を重ねたうえで、ハリス氏は対照的に「大統領を目指す人の中で、最もふさわしい資格の持ち主の一人」だとたたえた。

さらにミシェル氏は、選挙当日まで残り11週間しかないのだと強調し、会場にいる全員がハリス氏とウォルズ氏を当選させるため、すぐさま活動を開始するよう促した。

「正式な要請だと思ってください。ミシェル・オバマが皆さんにお願い……じゃない、みんなに指示しています。自分で、何かして(do something)と」

ミシェル氏がこう表明すると、「Do something!」という連呼がしばらく場内に響いた。

「Yes, she can」

続いてこの日の締めくくりに登壇したオバマ元大統領は、「シカゴ、戻れてうれしい」とあいさつ。オバマ氏は大統領になる前、シカゴ拠点の住民支援活動リーダーからイリノイ州議会議員となり、同州選出の連邦議会上院議員を経て、大統領になった。

イリノイ州上院議員として2004年の民主党大会で演説して一気に全国区の知名度を得たオバマ氏は、「この党大会はいつでも、この国は特別だと信じる、変わった名前の子供に優しかった」と感謝したうえで、2008年に大統領候補になった自分がジョー・バイデン氏を副大統領候補に選んだのは、「自分にとって最高の判断のひとつだった」と述べ、バイデン氏の共感力やまともさ、たくましさ、「この国の全員がもっといいチャンスを得る資格があるという信念」をたたえた。

「向こうの政党が、一人の人間をあがめるカルトに変わってしまっただけに、国民をまとめ、自分の野心よりも国を優先させる指導者が必要だった」とオバマ氏が言うと、聴衆は前日と同様に「ありがとうジョー」と連呼。オバマ氏は「歴史はジョー・バイデンを、危険にさらされる民主主義を守った優れた大統領として記憶する」と言明した。

「松明(たいまつ)は受け継がれた」と続けたオバマ氏は、「自分の未来や子供の未来のことを考え、私のために戦ってくる人は誰なんだと、国民は尋ねている。そういうことを考えてドナルド・トランプは眠れぬ夜を、決して過ごしていない。それは確かだ」と断定し、会場を笑わせた。

そこからオバマ氏がトランプ候補について、自分の恨みつらみばかりを大事にし、「子供っぽいあだなや狂った陰謀論」をまき散らし、「群衆の大きさについて妙にこだわっている」と批判や皮肉をたたみかけると、会場はさらにわいた。

オバマ氏は、金持ち家庭に生まれたわけではないハリス氏は国民と同じ目線で、国民の問題に取り組むと強調。さらに、ウォルズ氏については「こういう人こそ政治の世界に入るべきなんだ。自分が何者かよくわかっている。彼が着るネルシャツは、絶対にどこかの政治コンサルタントに着せられてるんじゃない。あれは本人のクローゼットからとってきたもので、かなりいろいろな目に遭ってる」と述べると、客席にいた知事夫人のグウェン・ウォルズ氏は前かがみになって爆笑していた。

誰もが努力すれば中産階級になれて、住宅や医療や大学教育が得られる新しいアメリカ経済を作り、労働者に力を与える大統領が必要だとして、「その大統領にカマラがなる」とオバマ氏が言うと、聴衆のひとりが「Yes, she can!(彼女ならできる)」と声を上げた。

かつての自分の選挙スローガンをもじったこれを耳にしたオバマ氏は、「Yes she can!」と繰り返し、会場もさかんに連呼した。

「男女の賃金格差がなくなればすべての家庭の利益になるし、子供を親から引き離さなくても国境は守れる」ものの、「ドナルド・トランプと金持ちの献金者たちは世界をそう見ない。彼らは、一つの集団が得をすれば必然的に他の集団が損をすると思っているし、彼らにとって自由とは力のある者が好き勝手できることを意味する」と批判。それだけにアメリカは「お互い支えあい」、「リンカーン大統領いわく『自分たちに内在するより良い天使』の特性を生かす」状態に戻らなくてはならないと、オバマ氏は述べた。

ただし、「分断した国」のこの選挙は「激戦になる」とオバマ元大統領は警告し、「だからこそこれからの77日間で私たちがそれぞれ自分の役割を果たして」、周囲に働きかけて、かつてないほど懸命に働くことで、ハリス氏とウォルズ氏を当選させるのだと強調した。

「そうやって私たちは一緒になって、より安全でより公平で、より平等でより自由な国を築き上げる」のだと、大歓声の中で元大統領は力強く締めくくった。

(英語記事 Obamas call on Americans to back ‘new chapter’ with Harris

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/clywjdwwv4vo


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