東京証券取引所がプライム上場企業に対して、2022年4月から二酸化炭素(CO2)を含む温室効果ガス(GHG)排出量の開示やそのリスク管理やガバナンス体制の見直しなどを義務付けたことなどから、上場企業は環境グリーン対策に追われている。排出量だけにとどまらず、その具体的な削減対策を提示しないと、投資家からも投資をしてもらえなくなるなど、株価や経営面にも大きな影響が出るだけに、上場企業にとっては避けて通れない対策になっている。
しかし排出量の算出は専門的な知識が必要で、簡単にはできないため、ビジネスチャンスが生まれている。算出から削減対策まで一気通貫で情報開示のコンサルサービスを手掛けてこの分野でトップシェアのエスプールブルードットグリーンの榎本貴仁執行役員に現状を聞いた。
プライム企業約200社と受託契約
同社は20年から人材派遣企業エスプールの傘下に入り、エスプールの100%子会社。これまでにほぼ全業種にわたり累計で500社以上と環境関連のコンサル受託契約を結び、現在はプライム市場を中心に200社と契約しているという。
情報開示で最も重要になるのが、TCFDとCDPの2種類。TCFDは気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)と呼ばれるもので、CO2を含むGHG排出量については、「スコープ1」と呼ばれる自社の排出量、「スコープ2」の電気や燃料費など間接的な排出量、「スコープ3」の製品の輸送、加工などに関する排出量の3つのカテゴリーでの開示が求められている。
中でも「スコープ3」は取引先に対してもデータの提供を求めなければならないため、収集が難しいといわれている。
東京証券取引所は、ガバナンスコードの中で「特にプライム上場企業は、気候変動に係わるリスク及び機会が自社の事業活動や収益業務に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的な確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである」と定めている。また金融庁も有価証券報告書の中で、投資家の投資判断に必要な情報としてこうした情報を開示すべきだとしている。
毎年161の質問に回答
CDPはCarbon Disclosure Projectの略称で、ロンドンに本拠がある国際環境NGO(非営利団体)。世界中の企業約2万社、日本企業では約2000社がCDPにデータを提出している。これにより多くの企業の環境関連の情報開示がなされ、機関投資家や取引先企業、政策決定者はそのデータを活用して、投資をするかしないかなどの判断をしている。現在世界中の700以上(24年)の機関投資家がCDPの活動を支持し、支持する機関投資が保有する資産総額は142兆ドル(同)もあり、株式市場にとっても影響力ある存在になっている。
2024年のCDPに提出する質問書の内容を見ると、161もの質問が網羅されており、これに毎年答えるのは相当のノウハウとマンパワーが必要になる。しかも、CDPは提出された報告書に対してAからDまでのランク付けをする。榎本氏は「ランクが高いとその企業は投資を受けやすくなり、低いと逆に投資を受けられなくなる。仮にCやDのランク付けされると企業にとってマイナス評価になってしまうため、B以上の評価になればコンサルのメリットを感じられるのではないか」と説明する。
エスプールブルードットグリーンのこれまでの支援実績としては、TCFD向け開示支援が149件、CDP向け回答支援が594件、CO2排出量算出支援が143件となっている。
新たな要求の開示も
最近では、工場の周辺で豪雨や山火事など気候変動関連の災害が起きた場合の被害額やその防止対策、サプライチェーンが被災した場合にどのような代替手段を取る準備をしているのかなどの対策の提示も求められる。単にCO2排出量の削減対策だけにとどまらないより広範囲の具体的な対策が必要になっている。
また株主総会では「気候変動に関連した株主提案が増えており、メガバンクなどに対しては化石燃料施設や石炭火力発電所を建設するための投融資の取り下げを求める提案もあり、こうしたことに適切に答えていかないと、投資家から排除され、株価が下がるリスクがある」と指摘する。