2024年10月3日(木)

BBC News

2024年10月3日

ジヤル・ゴル国際問題担当編集委員、BBCワールドサービス

イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)のフセイン・サラミ司令官は1日夜、イスラエルに向けて約200発の弾道ミサイルを発射するよう電話で命令した際、作戦司令室の大きな垂れ幕の前に立っていた。イランのメディアがその場面の動画を報じた。

垂れ幕には3人の男性の写真が描かれていた。サラミ司令官は、その3人の死に対し、イランが大規模な攻撃で報復を行うと主張した。

1人は、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスで政治部門トップだったイスマイル・ハニヤ氏だ。今年7月にイランの首都テヘランでの攻撃で死亡した。イランはこの攻撃をイスラエルによるものと非難している。別の1人は、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師で、もう1人はレバノンの首都ベイルートでイスラエルの空爆によって死亡したIRGCクッズ部隊のアッバス・ニルフォルーシャン作戦司令官だ。

IRGCは、極超音速ミサイル「ファタハ」が12分でイスラエルに到達し、イスラエルの空軍基地3カ所と情報機関モサドの本部を含む目標を正確に攻撃したと主張した。

しかし、イスラエル国防軍(IDF)は、ミサイルのほとんどは「イスラエルとアメリカ主導の防衛連合によって迎撃された」とし、イスラエルの中部および南部で「少数の命中」があったと発表した。

攻撃の直後、テヘランのパレスチナ広場には、イスラエルを示すダビデの星の形をした建物に向かって飛んでいくミサイルと「シオニズムの終わりの始まり」という文字が描かれた巨大な絵が掲げられた。

ハマスのハニヤ氏が暗殺されて以降、イランは自制しているようにみえたが、この不作為が屈辱の元となった。イスラエルは、イランの最も親密で最も長年の同盟相手であるヒズボラに壊滅的な打撃を次々と与えた。9月27日の空爆でナスララ師とニルフォルーシャン司令官が殺されたことで、イランの屈辱は頂点に達した。

1980年代にIRGCがヒズボラの設立を支援して以来、イランが提供する武器や訓練、資金は、ヒズボラがレバノンで最も強力な武装勢力および政治勢力へと成長する上で極めて重要な役割を果たしてきた。

イランの指導者たちは10月に入るまで、ヒズボラとイスラエルの消耗戦が、イスラエル軍を疲弊(ひへい)させるのに役立つと期待していた。イスラエル軍は現在も、ガザ地区でハマスと戦闘を続けている。

また、ヒズボラとその大量のロケットやミサイルの在庫が、イランの核およびミサイル施設に対するイスラエルの直接攻撃への大きな抑止力になっているとしていた。

7月に選出されたイランのマスード・ペゼシュキアン大統領は、イスラエルがイランを挑発し、アメリカをも巻き込む地域戦争を引き起こそうとしていると非難した。

イランメディアは2日、カタールを訪問したペゼシュキアン大統領が、「我々も安全と平和を求めている。テヘランでハニヤ氏を暗殺したのはイスラエルだ」と述べたと伝えた。

「欧米は、我々が動かなければガザ地区に1週間で平和が訪れると言った。我々は彼らが平和をもたらすのを待ったが、彼らは殺戮(さつりく)を拡大した」と、同大統領は語ったという。

イランの強硬保守派の多くは、同国がイスラエルに対して行動を起こさないことに神経をとがらせていた。

最高指導者であるアリ・ハメネイ師とIRGCが管理する国営テレビの複数のコメンテーターは、ハニヤ氏暗殺に対する報復を控えるという決定がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を勢いづかせ、イランのレバノンにおける利益と同盟相手を攻撃するよう仕向けたと主張した。

1日のミサイル攻撃の後、イラン軍参謀総長のモハメド・バゲリ少将は、「忍耐と自制」の時期は終わったと述べた。

「我々はイスラエルの軍事および情報施設を標的にし、経済および産業施設を意図的に攻撃しなかった。しかし、もしイスラエルが報復するならば、我々の対応はより強力なものとなるだろう」と、バゲリ氏は語った。

今回のミサイル攻撃は、イスラエルの攻撃に対して沈黙を続けることは、イラン国内だけでなく、ヒズボラやハマスを含む「抵抗の枢軸」と呼ばれる地域同盟から見て、イラン指導者たちが弱く無防備であるとみなされるという、懸念の高まりを反映している。

現状維持の終わり

イランとイスラエルは数十年にわたり、「No War, No Peace(戦争もなく、平和もない)」という政策を貫き、影の戦争を続けてきた。しかし、そうした現状維持は終わりを迎えようとしている。

イスラエルは今回の攻撃に厳しく対応すると宣言し、ネタニヤフ首相は「イランは大きな過ちを犯し、その代償を払うことになるだろう」と警告した。

アメリカからも、トーンと戦略の転換を示唆する兆候が見られる。

イランは今年4月、シリアのイラン領事館に対する空爆でIRGCの司令官数名が死亡したことへの報復として、イスラエルに向けて300ものドローン(無人機)とミサイルを発射した。それらのほとんどをイスラエルとアメリカ主導の軍が撃墜した後、ジョー・バイデン米大統領は自制を促した。イスラエルはこの呼びかけに応じ、イラン中部のイラン防空部隊に対してミサイル1発を発射するにとどめた。

しかし今回、ジェイク・サリヴァン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、イランの攻撃には「深刻な結果」が伴うだろうと警告し、アメリカは「イスラエルと協力して、それを実現する」と述べた。

イスラエルのメディアは2日、イスラエル当局者が「数日以内に」イランへの報復攻撃を実施する準備をしていると述べたと報じた。また、攻撃目標は同国の重要な石油施設を含む「戦略的拠点」になるとする、当局者の話も伝えた。

この当局者はさらに、イランがイスラエルへの報復攻撃を実行に移した場合、イランの核施設が攻撃されるだろうと警告したとされる。

イラン政府高官らは、ハニヤ氏とナスララ師、ニルフォルーシャン司令官を殺害したことに対する報復は、これ以上の挑発行為がなければ、これで終わりだと主張している。

イランのアッバス・アラグチ外相は、テヘランのスイス大使館を通じてアメリカに対し、「介入しないよう」警告したと述べた。

「イスラエルを支援したり、イランに対する空爆に自国の領空を使用することを許可する第三国は、正当な標的とみなされる」と、アラグチ氏は述べた。

アメリカは中東地域に約4万人の兵士を駐留させており、その多くはイラクとシリアに展開している。これらの部隊は、両国でイランが支援するシーア派民兵組織の脅威にさらされる可能性がある。

イランは今、イスラエルの対応に備え、その賭けが成功することを願っている。

(英語記事 Iran gambles with Israel attack after humiliating blows to allies

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/ce8dgzd075zo


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