国際メディアは、「反米のマハディール」に対する「親米のアンワール」という構図で報道し、その後に彼が同性愛の罪で司法の追及を受けた折には、政治的断罪だとしてマハディール政権を糾弾した。
この記事の筆者は、「マハディール政権下で副首相を務めた時期、彼が将来どう国を統治するかの手がかりを得ることができたはずだ」と記しているが、この一文に同意するが、おそらくそれはこの筆者の意図とは別なる視点においてである。
(1)第一に1990年代後半にアンワール副首相が演説をした折には、必ずそれに先立ちイスラム宗教者の祈りの時間が設けられた。アンワールは宗教的行事を国の行事の一部に取り入れることを政策の柱にしようとしていたらしい。
一方、マハディール首相は個人として信仰篤いイスラム教徒だが、宗教を国家行事の一部にすることには控え目だった。この記事の書き手は前段にだけ賛意を示すだろう。
(2)第二に、アンワール副首相兼蔵相は90年代後半、上記の通り米国の働きかけに動かされていたが、それに反対する当時の首相や中銀総裁の政策的説明の方が説得力を有していた。今アンワールは首相の立場で中国に随分傾斜しているが、その政策的説明も90年代後半と同様で説得力がない。この記事の筆者は後段にだけ賛同するだろう。
経済力向上で変わる途上諸国の立場
昨今、グローバルサウスの抬頭が象徴する通り、途上諸国の経済力が大きくなるにつれ、西側諸国の途上諸国への影響力を補強してきた経済力が相対的に萎えてきている。途上諸国の国民が経済的な余裕も得て、自らの思想、哲学を主張し選択するようになり、その結果、彼らの発言は年々勢いを増してきている。
西側諸国の政治哲学と途上諸国のそれらとが、経済力の優劣という外部環境の影響から解き放たれ、いわば対等の競争条件の下で議論できる世界が出現しつつある。中国はじめBRICS諸国は、経済の力を駆って途上諸国の政治的決定プロセスに影響を与え、自らの主張を他の途上諸国に浸透させてきている。アンワール首相率いるマレーシアは最近、BRICSへの加盟申請をしたという。