2024年10月28日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年10月25日

 なぜ西側は、間違ったアジアの指導者を支持してしまうのか。第一に、欧米で長く過ごした人々に簡単に説得されがちである。そうした人々は、西洋人が認める普遍的価値観について語るが、その価値観を体現しているとは限らない。

 ミャンマーの元指導者アウンサンスーチーは、1990年代に自宅軟禁されていた時、英米で過ごした数十年間の経験を持ち出し、欧米人に訴えたが、一旦政府首脳となると、彼女は、ロヒンギャのイスラム教徒への国軍の残虐行為を擁護した。

 米国人には、1990年代にクリントン政権下で財務長官を務めたロバート・ルービンの視点でマレーシアの政治を理解する人が多い。ルービンは、アンワール財務大臣(当時)と友人になった。アジアの指導者がリベラルではないことが判明しても、西側は長くその指導者を擁護し続ける傾向がある。

 こうした罠から逃れることは不可能ではない。政府から自立した政治団体の方が、政治家個人よりも権利と自由の擁護において信用できる。そうした団体をもっと支援すべきである。政治指導者に関しては、西側は、本来の原則を貫くべきである。

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「反米のマハディール」と「親米のアンワール」

 人権や環境の分野で、西側の諸団体は、途上国の中に多くの非政府団体(NGO)の創設を促し、資金面でも、理念の面でも支援している。この記事の筆者も、途上国の政治家個人よりも諸団体の活動を通じて支援する方が、結果を出せるだろうと主張する。人は移ろい易く、特に政治家は状況に応じて変化するので、当初の期待通りの成果を得にくい。

 歴史を遡れば、マレーシア政界でのしていったアンワール・イブラヒムが、世界の舞台に登場するのは、1990年代後半のアジア経済危機の時だった。タイやインドネシアと同様、マレーシアの通貨も欧米金融資本の「売り攻撃」の中で急速に下落し始めた時、米国はじめ先進諸国は、国際通貨基金(IMF)の支援を得て対処すべきだと主張した。

 マハディール首相(当時)は、IMFの主張する規律強化だけで通貨の下落に歯止めをかけなければ、欧米資本によるマレーシアの民族資本の買収を止めることができないと考え、その通貨を米ドルへペグすることにより急場を凌いで成功した。その時、この方策に異を唱え、欧米の意見に従うのも一案だと主張したのがアンワール副首相兼蔵相(当時)だった。


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