2024年7月27日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年1月31日

タクシードライバーの一言

 2005年の反日デモの後、当面の間、館員は大使館ナンバーの車を使って出勤するのを自粛するよう指示された。日本大使館員だと特定されて害を被ることを恐れたからだ。ある日、住居からタクシーで大使館に向かった。大使館近傍の「国際クラブ」と行き先を告げて走り出したが、ドライバーが「日本大使館員か?」と聞く。「そうだ」と答えると「小泉は正しい」と言う。

 聞き間違えたのかと思い、「今、小泉は正しいと言ったのか?」と聞き直した。彼は、「そうだ。国のために死んだ兵隊のことを忘れない彼は正しい」と言い、「自分も軍隊にいた。天安門事件(1989年6月4日)の際には、多くの仲間が市民に殺された。しかし、国は亡くなった兵士たちの家族を蔑ろにし続けている」と続けた。中国国内も日本と同様、本来、様々な意見があるのだ。

 中国指導部は、中国世論を強硬派の好きにさせて良いとは考えていない。安倍首相靖国神社参拝のニュースを聞いて、中国当局は直ちに警官隊を北京の日本大使館付近に派遣したと言う。民衆の過度の反応を封じ込めるためだ。微博(マイクロ・ブログ)上でも、中国当局が関連情報を削除していた形跡が見られる。微博上に「安倍靖国参拝関連の情報がしばらくすると削除されるのはどういうことだ」という不満の書き込みがあるのだ。ブログ上で反日感情が炎上するのを抑えたかったのだろう。

 しかし、今の中国では言論を完全に抑え込むことは出来ない。中国でも、強硬派の勢いが増せば、知日派の意見は「弱腰」「売国奴」等として封じ込められてしまう。

休みもとれない軍の現場?

 2014年元旦に中国海軍東海艦隊が勤務態勢を戦争準備段階に引き上げた。海上自衛隊艦艇が、中国海軍の演習を妨害したことが理由だとされる。東海艦隊は、「海上自衛隊の危険な行為」を、日本の戦争準備の証拠と見て、緊張しているのだという(海上自衛隊で長年勤務した者としては、挑発行為をする艦長がいるとは信じられない)。しかも、これを聞いたのは安倍首相靖国神社参拝の前のことだ。靖国参拝以降、中国外交部や公安機関等では、日本に関わる仕事が減ったという声もある。一方で、軍の現場は休みがとれなくなったことに腹を立てていると聞く。

 中国海軍が主張する「海上自衛隊艦艇による中国海軍演習の妨害」が、何時の事象を指すのか不明である。2013年10月31日の定例記者会見で中国国防部が、「10月25日から長時間にわたって、海上自衛隊艦艇が中国海軍の演習海域に乱入して演習を妨害した」と非難し、小野寺防衛大臣が「海上自衛隊の監視活動は合法だ」と反論するという事象が生起している。しかし、2014年元旦からの戦争準備態勢が当該事象に対応するものだとすると、対応策が採られるまでに1カ月以上の時間を要したことになる。この時間は、戦争準備態勢について中央の承認或いは指示を得るために必要だったと考えられる。


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